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【起業家訪問シリーズ 社長が語ってくれた起業のこと】株式会社ブレインパッド 草野 隆史

ソニー銀行編集部が起業家を訪ねて、それぞれの考えや価値観を問う「起業家訪問シリーズ」。

さまざまな起業家のみなさんを訪問し、仕事や働き方が多様化していく社会における働きかたのヒントを伺います。第一弾は、株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野 隆史さんを訪ねました。草野さんは、2004年にビッグデータの分析・活用サービスを提供する株式会社ブレインパッドを立ち上げ代表取締役社長に就任。2011年9月に東証マザーズに上場。更に2013年7月には東証一部に市場変更しました。その後、2015年9月には株式会社ブレインパッド 代表取締役会長に就任しています。

ビッグデータと言えば、近年、IT業界やマーケティング業界でメジャーになった単語ですが、草野さんが2004年にブレインパッドを創業した当初は、同様なサービスを行う会社は他にほとんどなかったそうです。まさに未開の市場を自らの手で切り拓いてきた起業家である草野さんですが、その起業は果たしてどんなものだったのでしょうか。

やりたいことが見つからずに選んだ大学院進学の道

私は1995年に大学を卒業したのですが、そのタイミングでは就職せずに大学院に行くことにしました。その時は、やりたいことがみつからずに大学院に行くという感じでした。

周りと違って「大企業に就職したい」とは思ってなかったんです。理由としてはふたつあって、ひとつめは、こんなに変化が激しい時代の中で、巨大な組織がその変化についていけるとは思わなかったんです。もうひとつは、大企業に就職したら経営者は自分とは遠いところにいるから、何を考えているのかがよく分からない。それは嫌だなと思いました。自分にとっては経営と近いところで仕事ができる環境が理想でした。

大企業に就職することの醍醐味は大きな仕事ができることにあると思うのですが、その為には偉くなる必要があります。私たちの頃は1,000人位新卒を採用する企業もあって、その上下2~3世代の中で頭角を現して出世していかなくてはならない。これだけの規模になると、能力で勝負するだけでも大変なのに、運とか人間関係とか実力以外の要素も大きそうに思えて、自分には無理だなと。上に行けるかどうか分からない階段を上っているうちに、経営層の判断ミスに巻き込まれてしまうこともある。これは避けたかったんです。

そんな考えだったので大企業には行きたくなかった。かといって、当時は他の選択肢として働きたいと思うようなベンチャー企業もなかったんです。だから、二年間意思決定を保留して大学院に行くことにしました。

大学院には進学しましたが、いつまでも親のスネをかじっている訳にはいかない。やりたい事があろうがなかろうが大学院を修了したら就職しなくてはならない。ということは、就職した後にやりたい事がみつかる可能性もある訳で、その時に自信をもって会社を辞められるように、大学院にいるうちに自分でお金を稼げるようになっておくことが必要だと考えはじめました。

そこで、大学院の修了に必要な単位を取得してからは、友人と起業の真似事をしていました。当時、WEBサイトを作るのに1ページ5万円くらいもらえたので、 WEBサイト制作をやっていました。そのうちに、どうやって稼げばいいのかポイントが分かってきたので、「一度社会を見てみよう」と思い、就職することにしました。就職先は、今はオラクルに買収された外資系IT企業のサン・マイクロシステムズという会社でした。

「データ分析をこの国に根付かせる」ことを決意して起業

サン・マイクロシステムズに在籍していたのは2年3ヶ月くらいです。2000年になって大学院の時にWEB制作をやっていた仲間に、上場モデルでVC(ベンチャーキャピタル)からお金を集めて会社を作り直すのでジョインしないかと誘われて参画することになりました。その会社は結局、2007年に東証マザーズに上場したのですが、私はその前に辞めて、2004年3月にブレインパッドを設立しました。

当時は、インターネット回線がナローバンドからブロードバンドに変わったころで、企業には大量のデータが流れ込むようになっていました。企業とお客様とのコミュニケーションもネットで完結するように変化してきたんです。そうすると、データを分析できないとお客さんのことが分からなくなってしまう。逆に分かると昔以上に色々なことが分かるようになる。これからは「データ分析力が企業の競争力になる時代」だと感じていました。

一方で、これはサン・マイクロシステムズにいた時から思っていたことなのですが、日本の企業はIT投資をコスト削減には使うけど差別化要因には使わない。このままだと日本の企業はグローバルでの競争力をなくして生産性がさがってしまうのではないかと。そんな危機感も感じていました。

この国をよくするためには誰かが「データ分析」の仕事をやらなければならないと思いましたし、これはすごく大きなビジネスのOpportuniy (機会)だと感じていました。同時に、世の中にないものを作り上げていく仕事をしたいと思っていました。新しい価値を作るとか、世の中に変革を促すとか、そんな仕事に関わりたいと考えていました。

そのころ、現社長の佐藤と出会って意気投合し「データ分析をこの国に根付かせる」ことをメインコンセプトとしてブレインパッドを立ち上げました。設立メンバーは4人、少し遅れて1人ジョインしたので実質5人で始めました。

でも当時、「データ分析の会社を作る」というと、ほぼ全員から「やめたほうがいい」と止められました。1990年後半にデータマイニングのバブルみたいなのがあって、そこで市場が根付かなかった経験からそのようにアドバイスしてくれたのですが、私は逆に「みんながそこまで反対するなら、しばらく競合は入ってこないだろう」と考えていました。競合が入ってこないなら、極端な話、経営がヘタクソでもなんとかなるんじゃないかと思っていました。

公認会計士事務所の一室を間借りして始まったブレインパッド

創業してすぐは、知り合いの公認会計士事務所の一室を間借りさせてもらっていました。部屋には窓がなく、まさに立ち上げたばかりのベンチャーという感じのオフィスでした。そこには半年くらいいたかな。一年はいなかったような気がします。

起業当時、生活費のためにプールしておかなくてはいけない金額のことを考えると、資本金に出せるお金はあまりなかったです。結局、一緒に創業した現社長の佐藤に借りることになりました。当時、彼が乗っていた車があり、それもかなりお金をかけていた車だったんです。それを売って資金にしようという事になりましたが、実際に売りにいってみたら、これが想定以上に安い金額にしかならなくて二人で愕然としました。その後、佐藤が車を売ったお金の中から私が半分借りて、同じ比率で出資しました。

お金の不安はありましたね。割とすぐにみんなの給料を出せる位の仕事は取れるようになりましたが、なかなか安定的に仕事が取れるという状態にはならなかった。数カ月みんなで頑張って稼いだお金も、一カ月受注がなければあっという間に減っていく。運転資金として銀行から借り入れもしました。

成長のアクセルを踏む為にVCから出資を受けることを選択

一年位続けていると営業の手ごたえはそれなりにあって、やはりビジネスになるという実感はありました。でも、たくさん仕事を受注しても分析をするメンバーがいないわけです。仕事を取りすぎると分析チームがパンクしてしまうのですが、当時は、世の中に同じようなサービスを展開している会社がなかったので、外注することもできなかったんです。

であれば、自社に分析できる人材を揃えたいところですが、即戦力になる経験者が世の中にいないから未経験者を採用して育成していくことなりました。そうなると、キャッシュが先行して出て行ってしまうので、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けることに決めました。

その後、投資家まわりをはじめて2005年12月にVCからお金を入れてもらって少し安定しました。そのお金で人を雇って、分析できる体制を整えて、自社製品を開発するためのエンジニアも採用しました。成長のアクセルをようやく踏めるようになったのがこの頃です。

起業ってバックパッカーみたいなもの!?

ここまで振り返ってみると、やはり起業は楽しかったです。

なんか、バックパッカーみたいで楽しいです。

バックパッカーって旅に出ると色々なサプライズが起こるじゃないですか。何がおこるか分からない。それに身の危険も少しはある。でも、自分が観に行きたい景色を自分の意思で観に行くことができる。旅に出なければ出会えないひと達にも出会える。色々な体験ひとつひとつがすごく楽しい。そんなことを考えると、起業とバックパッカーの楽しさには共通点があります。

あと時々、社員から感謝されることがあるんです。そんな時は、起業してよかったなと思う瞬間です。上場した際にお祝いの席で、ある社員が「草野さん、ブレインパッドがあったお陰でデータ分析という仕事に就くことができました。」と言ってくれたんです。

このメッセージを聞いたときには不覚にも涙が出てしまいました。私は鈍感なので、あまり苦労を苦労だと感じていない方なのですが、それでも細かい苦労はたくさんしていて、この時は「ああ、救われたな」と思いました。

世の中に新しい仕事を作って、新しい価値を作ることができた。そのことで誰かの人生に貢献することができたんだなと思いました。上場したことはもちろん嬉しかったのですが、このことの方が嬉しくて記憶に残っています。

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起業を目指すひとへのアドバイス

私は、職業を選ぶ延長線上で「起業」を選ぶのは違うんじゃないかと思っています。そういう人もいるかもしれないけど、私は違うタイプだからその人の気持ちは分からない。何か効率のいいビジネスアイディアを思いついたから起業しようと思うのであれば、それは困難にぶつかったときに腹に力が入らず踏ん張れない。私は起業にはテーマが大事だと思うんです。心の底からやりたいと思うテーマがあってその為に仕事をするから苦しいときも頑張れると思うんです。

ブレインパッドの場合は「データ分析をこの国に根付かせる」ことが大きなテーマでした。もしもそんなテーマがあって、それが起業という手段で叶うのであればチャレンジするべきです。考え抜いてテーマに取り組めば道はきっと拓けると思います。やりたいことがあるのに躊躇している人は絶対にやったほうがいいと思います。


いかがでしたでしょうか?

自分なりのテーマを持って仕事を楽しむ姿勢は、起業を目指していなくても見習いたいですね。

ソニー銀行ブログでは、今後も起業家訪問シリーズをお送りしていきますので、お楽しみに!

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