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急激な円安はいつまで続く?プロの為替分析

はじめに
為替市場では対米ドルで24年ぶりに135円を突破するなど、「歴史的な円安」が話題になっています。これを引き起こしている理由や今後の方向感、さらに日本銀行の動き方などをTVなどでおなじみのソニーフィナンシャルグループ チーフアナリスト 尾河眞樹にインタビューしました。

Q1:
ソニー銀行のお客さまの傾向として、外貨預金に興味を持って口座開設をするかたが増加しています。外貨預金の月間売買高が過去最高を更新するなど、かなり「外貨」への注目度が高まっているように感じます。今の為替の状況をどのように捉えていますか。

A1:
長らく外為市場に携わってきた者としては、為替へのご興味が高まっていることは、とてもよいことだと思っています。足下日本の輸入物価が上昇しているのには、主にウクライナ問題に端を発した原油価格の高騰など、資源高が背景にありますが、円全面安のトレンドも要因のひとつです。

おそらく、為替相場は経済や日々の生活にも影響するということを実感していらっしゃるかたも多いのではないでしょうか。円の力が弱くなるというと、ネガティブなイメージがありますが、外貨建て投資信託や外貨預金を保有されているかたにとっては、高いリターンを得られる好機となっています。日本の経常黒字は今やそのほとんどが所得収支黒字によるもので、主に企業や機関投資家が海外に投資した際に得られる利息や配当金がメインです。日本はモノやサービスを海外に売って儲ける国から、海外に投資して儲ける国へと構造が変化したのです。

Q2:
日本全体の環境や構造が変化していく中で、個人の行動も見直す必要があるということですね。具体的にどのような行動変化を起こしていくべきと考えますか。

A2:
約2千兆円の家計金融資産のうち外貨建ては長らく3%前後で推移しており、個人は今の円安メリットを感じにくいですが、日本全体でみれば海外投資のリターンが増えているわけですから、メリットがあることも確かです。おそらく、個人もこれから外貨建て資産の保有に目を向けるきっかけとなると思います。また、日本でも今後じわじわと物価が上昇していくことを想定するなら、現金の価値は目減りしていくわけですから、デフレだった時代と異なり「Cash is King」という考え方は変えていく必要があると思います。

多くのかたが将来を見据えて、「お金にも働いてもらう」こと、つまり資産運用について考え、少しずつ金融資産を増やしていくことを検討される流れになればよいなと感じています。

Q3:
今の急激な円安トレンドは3月あたりから発生しているように思いますが、節目となったイベントは何なのでしょうか。

A3:
まずは3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は非常に大きな節目でした。パウエル議長が会見でタカ派的な見解を示したことに加え、メンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)が大きく上方修正されたこと、また、50Bpsの利上げが視野に入ってきたことなどにより、ドル高が進行しました。

もうひとつ大きかったのは、丁度このころ、欧州中銀(ECB)もタカ派にシフトしつつあり、それまで日本の利回りより低くマイナス圏であったドイツ10年債の利回りがプラス圏に転じ、いよいよ日本の10年債利回りを上回ってきました。日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)によって、日本の10年債利回りだけが低く抑えられていた中で、欧米の国債利回りが急上昇したことにより日本の低金利状態が際立ったことがその後の円売りにも繋がったとみています。

イールドカーブ・コントロールとは
日本銀行の金融緩和策。短期政策金利と長期政策金利の誘導目標を定め、その水準を達成するために国債の買い入れを行う。
現在、長期金利は10年物国債の金利が0.25%程度で推移するように操作されており、金利を意図的に抑制している。

Q4:
ドル円は一時135円を突破するなど、20年ぶり高値圏を記録しています。ソニー銀行のお客さまにとっても未経験のところまで水準が切り上がっており、多くのかたが先行きについて非常に興味がある水準感だと思っています。
2022年上半期はウクライナ情勢、各国政策金利の引き上げなど市場を動かす要因がたくさんありましたが、今後の注目材料や方向感についてお考えを教えてください。

A4:
日米実質金利差とドル円の相関性は高く、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを加速させる中で、金利差の拡大傾向は今後も続きそうです。6月のFOMCで公表されたドットチャートによれば米国の政策金利は23年中に3.75%まで上昇する見通しとなっています。この見通しを前提に試算すると、今年の年末には143円付近までドル円が上昇している可能性もありそうです。

また、個人的には米国の期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率)に注目しています。これは、市場参加者によるインフレ見通しに当たるものですが、FRBの金融政策が奏功して米国のインフレは落ち着いていくと予想しているのであればブレークイーブンインフレ率は低下します。反対に、FRBの利上げではインフレは抑制できないとの見通しになれば期待インフレ率は上昇します。この場合FRBはもっと急激な利上げを行う必要が出てくるため、米国経済が景気後退入りする可能性が高まります。そのときに米金利高でいったんドルは買われるものの、その後は大きく下落する公算が大きいです。

Q5:
一方で日本銀行についても伺います。円安による物価上昇を警戒する声も一層高まってきましたが、この先、日本銀行が金融政策の転換に踏み切る可能性はあるのでしょうか。

A5:
少なくとも年内は金融政策の変更はないと思います。日本の問題は、現在のインフレが資源高によるコストプッシュ型であることに加え、賃金が上昇しないことで体感インフレが高まっており、消費者マインドの悪化に繋がっていることです。このため、インフレによって家計のサイフの紐は益々固くなるという、所謂「悪いインフレ」が進行しつつあります。景気の足取りがおぼつかない中で、仮に、日銀が政策変更を行って現状マイナス0.7%付近の日本の実質金利がプラスに転じれば、金融環境が引き締まり、かえって景気の足かせとなるリスクもあります。消費者マインドの改善には資源価格が下落するか、賃金が上昇することが必要ですが、いずれも金融政策でどうにかできるものではありません。

景気度外視で円安是正に踏み切るなら、10年債利回りの変動幅拡大や、YCCのターゲットを10年債から5年債に変更するなどして、10年債利回りの上昇をある程度容認することが可能です。ただ、日銀としては金利上昇の効果よりもリスクのほうが高いとみているのではないでしょうか。加えて、日銀は急速な円安は望ましくないものの、円安そのものは日本経済全体にとってはネットでプラスとの考えを維持しており、少なくとも黒田総裁の下では円安是正に動くこと自体考えにくいでしょう。逆に言えば黒田総裁退任後の来年後半は、こうした政策の微修正はあるかもしれません。

Q6:
金利上昇を受け、日米株価については不安定な地合いが続いています。外貨投資の観点で、アドバイスがございましたらお願いします。

A6:
外貨投資にご興味をお持ちのかたにはいつもお伝えしているのですが、やはり、分散投資をおすすめしたいです。分散投資というと、異なるアセットクラスを同時に持つイメージがありますが、買うタイミングの分散も重要な分散投資です。特に現在のようにボラティリティが高い状況、かつ、大きな相場のトレンドが続いているときには、なかなか冷静な判断がしづらいため、まとめて一気に外貨を購入し、あとで失敗する、というケースも少なくありません。それよりも、金額やタイミングを分ける。また、積み立てのように毎月同じ金額を上がっても下がっても買い続けることが、長期的にみれば最も安定した運用になると思います。

Q7:
ソニー銀行にも外貨積み立てや投信積み立てなど分散投資が可能な商品を多数ご用意しておりますので、その重要性を伝えていきたいと思います。その他外貨投資をするにあたり、日頃から意識するべきことはありますか。

A7:
外貨投資をするからには、いかに海外の情報をタイムリーにキャッチするかが重要です。今はインターネットでさまざまな情報を見聞きすることができますが、ネットにあふれる情報は玉石混交なので、新聞などに加えていくつかの金融機関のレポートなどを読まれることをおすすめします。ソニーフィナンシャルグループでは、すべてのレポートをネットに公開していますので、ぜひ情報収集のひとつとして、ご活用いただければ幸いです。

ソニー銀行の積み立て3商品
こちらではソニー銀行が取り扱う積み立て3商品をご紹介しています。分散投資をするにあたりぜひご覧ください。

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