消費税増税と中小小売店への手厚い優遇策を用意
10月1日の消費増税が近づいています。増税による消費低迷の抑制と、キャッシュレス推進を狙って、中小の小売・サービス業でのキャッシュレス決済に対し、5%のポイント還元(コンビニは 2%)が行われます。その予算は約2,800億円とされており、すでに100社 以上のクレジットカード会社などが参加に名乗りを上げています。
また、4月からは5%還元を実施しようとする店舗の登録も始まりました。ちなみに還元制度の実施期間は9ヶ月間で、消費増税の始まる今年10月1日から東京オリンピックが始まる来年の6月末までです。
この還元制度に参加すると、加盟店にはいくつかの特典があります。決済端末の新規設置費用は国が3分の2、決済事業者が3分の1を負担してくれるため、無償となります。さらに、期間中は加盟店手数料も3.25%以下となり、そのうち3分の1を国が補助してくれます。
9ヶ月間で優遇策は終了するのがネック
中小の店にとって、キャッシュレス導入時の悩みの種の加盟店手数料が実質2%少々となれば、導入が進むことも期待したくなります。しかし、現実はそう甘くなさそうです。
この手数料率、適用されるのはあくまで9ヶ月間だけで、終了後は政府の補助が打ち切られるだけでなく、手数料率そのものも引き上げられる可能性があるのです。そうなると、一度は対応したキャッシュレス決済を辞めてしまう加盟店が出てくるかもしれません。
せっかくの推進策も台無しですが、政府にとっては「増税による消費の落ち込み抑制」というもうひとつのお題目がある以上、傍観を決め込むことになるでしょう。
お得に頼るのではなく、利便性に頼るべし!
そもそも、本当にキャッシュレスを推進したいのならば、政府は打ち上げ花火のようなポイントに頼るのではなく、長く続ける方策を考えるべきです。
この場合、ヒントになりそうなのは、すでにキャッシュレス化をある程度成功させた諸外国の事例です。今の日本はポイントのお得感で消費者を引き付けキャッシュレスを牽引しようとしています。しかし、その他の国はむしろ、利便性を追求することでキャッシュレスを推進しているのです。
FinTechを使った現金より早くて正確な決済、購買履歴の見える化による家計の集計のしやすさ、といった利便性に富んだ機能を強調することで、多くの人が現金からキャッシュレスに移っていったといいます。
その好例がJR東日本のSuica
日本で考えれば、電子マネーのSuicaが良い例でしょう。Suicaは本来、交通乗車券であるため多くの人が持っているうえ、タッチするだけでレジで の支払いもできます。現金では考えられない速さと正確さを備えているのが特徴となっています。
しかし、Suicaユーザーでポイントを貯めようと目を血走らせている人はほとんどいません。ポイント目当てではなく、タッチするだけで済むという便利さや楽しさがあるから使っているのです。
そういうツールが増えてくれば、何百億円もの費用を掛けてポイント付与やキャッシュバックをしなくても、皆が現金以外の決済方法を選択する真っ当なキャッシュレス時代の幕が上がることでしょう。そちらの方向に期待します。
ちなみに、現在のコード決済のポイント還元競争がいつまで続くのかということが関係者の間で話題になっています。現在の競争は熾烈ですが、そのきっかけになったのはPayPayの第一回キャンペーンの20%ポイント還元でした。
それ以降、コード決済については20%還元が当たり前となってきました。すでにLINEも毎月下旬にかけて20%還元を行っていますし、楽天も独自の20%還元キャンペーンを実施しています。ドコモのd払いも高還元率のキャンペーンを打っています。
利用者からすると時期をずらして、それぞれのキャンペーンを利用すればかなりのお得を得ることができますので、雑誌などは、その使い方を推奨しています。
しかし、今日はPayPay、明日はLINE、そのあとから楽天だといった使い方をしていると、紐付けるクレジットカードを間違えたり、銀行口座の登録に時間がかかったりして、かなり面倒なことになります。どこに行ってもSuicaひとつで、0.2秒で決済できるのですから、たとえポイントが貯まらなくても、その方がいいやとなるのです。
今後もファミマペイ、バンクペイ、それにセブンペイなどが出てきますので、来年の春ぐらいまではこのポイント競争はまだ続くと思われます。(オリンピックがいよいよ近づいてきた頃には少し下火になるのではないでしょうか。)また来春にはコード決済で予定されている30種類が出揃うでしょうから、そこを目指して各社のキャンペーン競争はさらに熾烈化すると思われます。しかし、その頃には利用者の方がトーンダウンしているのではないでしょうか。
【クレジットカード評論家 岩田昭男】
1952年生まれ 早稲田大学卒業後、月刊誌記者などを経て独立。クレジットカードのオピニオンリーダーとして、取材や執筆を行う。