日銀の利上げによってついに「金利のある世界」が戻ってきた日本。日米の金利差縮小を受けて、7月に160円を超えていたドル円は9月16日には一時140円ちょうどを割り込みました。2024年10月以降の為替、株式市場はどのような動きをみせるのか、おなじみのソニーフィナンシャルグループ チーフアナリスト 尾河眞樹にインタビューしました。
関心が集まる日銀の利上げペース
Q1:
7月の金融政策決定会合にて日銀は政策金利を0.25%に引き上げることを決定しました。
※これにより各銀行は一斉に円普通預金金利を改定し、ソニー銀行も従来の年0.02%(税引き前)から0.15%(税引き前)に引き上げました。
7月の利上げ時はややサプライズ感もあり、その後の株式市場はネガティブに反応しましたが、今後の日銀の利上げペースにどのように影響していくのでしょうか。
種類 | 2024年1月 | 2024年3月 | 2024年8月 |
政策金利 | -0.1% | 0.1% | 0.25% |
ソニー銀行の円普通預金金利 (税引き前) |
年0.001% | 年0.001% | 年0.15% |
A1:
はい。7月の利上げはやや勇み足にみえたうえ、声明文も、あくまで「経済が日銀の見通し通りに推移すれば」との前提付きではあったものの、今後淡々と利上げを続けるかのような内容だったことから、円キャリー取引の巻き戻しにより円が急騰するなど、市場にやや動揺が走りました。
しかし、その後の日銀幹部の発言をみる限り、日銀は低すぎる実質金利を是正するため、今後の利上げには前向きな姿勢を維持しつつも、追加利上げには慎重であることがわかります。植田総裁は「(利上げの判断には)時間的余裕がある」と述べています。
ソニーフィナンシャルグループは、米国経済はソフトランディングを予想していますから、日本の基調的な物価が2.0%に向かう中で、日銀は今後半年に1度くらいのペースで、0.25%ずつの利上げを実施すると予想しており、来年末までには政策金利は1.0%付近まで引き上げられるとみています。
ただ、海外経済が大きく下振れした場合や市場が不安定化した場合には、利上げスケジュールが後ずれする可能性があるでしょう。
注目したい米国の重要指標は?
Q2:
米国の利下げペースもキーポイントになると思います。9月FOMCでは0.5%の利下げ幅となりましたが、今後の利下げ幅、ペースを予想するうえで特に注目すべき指標があれば教えてください。
A2:
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.5%の利下げに踏み切ったのは、ややサプライズでしたが、パウエル議長の会見では、米国経済は、インフレは低下している一方で個人消費は底堅く、経済は良好であることが強調されました。したがって、あくまでも今回は「予防的な0.5%の利下げ」という色彩が濃いと思いますし、この後も0.5%ずつ大幅な利下げが続くとは考え難いと思います。
ソニーフィナンシャルグループは年内あと2回、0.25%ずつの利下げが決定され、来年末までに米国の政策金利は、3.375%まで引き下げられると予想しています。
市場では現在、年内約3回の利上げ、来年末までには政策金利は2.875%まで低下することが織り込まれていますから、当社より大幅な利下げが予想されていることになりますね。今後は、インフレ動向に加え、雇用関指標の大幅な悪化が回避できるのか、また個人消費の底堅さが持続できるのかが注目されます。
Q3:
7月の日銀の利上げ以降、ドル円相場は円安トレンドから円高トレンドにシフトしたように思います。今後もこのトレンドが継続するのでしょうか。
レート | 1月1日 | 4月26日 | 7月9日 | 8月28日 |
ドル円レート | 140.87円 | 158.33円 | 161.31円 | 144.57円 |
A3:
ドル円については、FRBの利下げ開始と、日銀の追加利上げへの期待などから、目先は下落する可能性は高いように思います。勢いがつけば140円ちょうどを再び割り込み、135~137円程度まで下落してもおかしくないでしょう。
しかし、米国の利下げが開始されたということは、今後米国経済は持ち直すことになるわけですから、経済指標の改善に伴って米長期金利も下げ止まり、来年以降はドル円も緩やかに上昇すると予想しています。
ただ、来年は通年でもドル円の上値は147~148円くらいを想定しており、150円を大きく超えていくことは想定していません。なぜなら、ドル円のボラティリティーが高止まりしそうだからです。ドル円のインプライド・ボラティリティーは1ヶ月物が8月には一時16%台まで上昇し、足下落ち着きつつありますが、それでも11%台で、年初来の平均(9.5%)を上回っています。
日米の金融政策は、米国が利下げ、日銀は利上げと、方向性は明確ですが、今後の政策変更のペースについては、あくまで「データ次第」としており、不透明であること、また、大統領選や地政学リスクの高まりなど、不確実性が高い中で、ドル円のボラティリティーは、比較的高水準で推移すると思われます。
こうした環境は、「円キャリー取引」には不向きですから、今年みたような161円台までの円安ドル高は、かなり遠のいたとみています。
Q4:
株式市場についてもうかがいます。2024年7月11日(木)に史上最高値を更新した日経平均株価ですが、約1ヶ月後の2024年8月5日(月)に過去最大の下げ幅(4,451円)を記録し、大きな話題となりました。
現在は徐々に回復し、38,000円付近で推移していますが、ここまでボラティリティーが高くなっている主な要因は何でしょうか。
A4:
ひとつには、米国経済が曲がり角に来ていること、これによって日米の金融政策の方向性が逆になったこと、さらに、円相場の不透明感が高まったこと、などが挙げられると思います。
米国の経済指標で弱いものが目立ち始めた結果、米国が景気後退に陥るとの見方も一部市場では浮上しています。米国経済が悪化すれば、日本も影響を受けるとの見方が不透明感高める一因となっています。
また、これまで外国人投資家は、資産配分を維持する目的で、米国株の動きに合わせて日本株を売買する傾向がありました。したがって、S&P500と、ドル建ての日経平均株価を重ねると、今年5月頃までは綺麗に連動していることがわかります。
しかし、もはや米国は利下げ(今後景気は回復)、日銀は利上げ(今後景気は引き締め)と、経済に与える影響も逆向きになるわけで、今やこの連動は完全に途切れました。
また8月以降円が急騰したことにより、例えば業績予想の想定レートを150円台などにしていた企業にとっては、おそらく下方修正する方向になり得ることや、ドル円のボラティリティーが高止まりしているため、日本の企業業績にも影響を与えやすくなっている点などは要因として挙げられると思います。
Q5:
新NISAの影響もあり、年明け以降の株式市場は非常に活発化してきました。日銀の利上げを受けて、円預金も金利のある世界となり、円定期預金の注目度も上がっており、今後は投資信託・外貨・円とさまざまな商品が資産の預け先となりそうです。
ソニー銀行で資産運用をしているかたへ向けて、効率的な運用方法やおすすめの運用商品があればぜひアドバイスをお願いします。
A5:
なるほど。効率的な運用方法ですね。今年は新NISAがかなり注目を集めましたから、今年から資産運用を始めたかたも多くいらっしゃると思います。そのかたがたにとっては、8月初旬の相場急落には本当に驚いたと思いますし、実際「やっぱりやめておこう」と、下げの局面で投資信託や外貨などを売却してしまったかたも多いと思います。
しかし、実は相場が大きく下落しているときこそ、投資のチャンスとも言えるわけで、むしろあのときは追加で購入するような局面だったと思います。
相場の底を見極めるのはプロでも難しいですから、下落時に購入すると、しばらくハラハラすることにはなります。もしこのハラハラを避けたければ、一番効率的なのは積み立てです。
定期的に一定金額を投資するドルコスト平均法であれば、上昇時には小さく、下落時に大きく購入することになりますから、最も効率的と言えるでしょう。
私のポートフォリオもそうなっていますが、グローバルな株式や債券に分散投資するような投資信託(為替ヘッジなし)、あるいは日本株の投資信託であっても、中にはグローバルで活躍している企業の銘柄が入っているもの、などを積立で購入し、あとは忘れてしまうようにしています。すっかり忘れていて数年経つと、気が付いたら増えていた!ということはよくあります。
相場をみてしまうと人間はどうしても下がっているときに恐怖を感じて売りたくなってしまいますから、こうした「ほったらかし積立分散投資」が個人的には一番効率的と思っています。
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2024年は34年ぶりに1ドル=160円台まで円安が急進。「このまま円安が続くのか?」と不安になっている人も多いだろう。また新NISAを機に海外の投資信託を買い始めた人にとっては、為替は大きな関心事となっているはず。そこで本書では経済アナリストの著者が、為替に興味をもった人のさまざまな疑問に、会話形式でわかりやすく解説。為替に影響を与える金利や経済の仕組みが理解できるだけでなく、なぜ為替が予想と逆の動きをするのか、短期・中期・長期的にはどう動くかなどの"相場感"まで身につく!