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2023年下半期の注目ポイントは?チーフアナリスト 尾河眞樹 特別インタビュー

2023年上半期の為替市場は昨年に引き続き、動きのある半年間となりました。また、世界的な株高もしばしば話題になっており、投資家の注目度も高まっているように感じます。
下半期の為替、株式市場はどのように動くのでしょうか。TVなどでおなじみのソニーフィナンシャルグループ チーフアナリスト 尾河眞樹にインタビューしました。

上半期の総括

Q1
2023年、130円台でスタートしたドル円は、5月に140円台を示現するなど、全体を通して円安ドル高基調で推移しました。ここまでの流れをどう見ていますか。

A1
年前半の為替相場を総括すると、ドル円相場が意外なほどに底堅く、上昇トレンドを保ってきたと言えます。背景として、ひとつには米国経済が想定外に強かったことが挙げられます。今年3月の金融不安を受けて、当時の市場参加者の米政策金利見通しは、「早ければ7月から利下げに転じる」というものでした。
しかし、4、5月以降予想外に堅調な米経済指標が続くなかで、こうした見通しは上方修正を迫られることになりました。もうひとつ、意外感をもって受け止められたのが日銀の金融政策です。昨年12月、サプライズのイールドカーブ・コントロール(YCC)修正により、市場では日銀の出口論が一気に高まりましたが、植田新総裁の登場と共にこうした見方は見事に封じ込められ円安が進行しました。6月15、16日に行われた日銀金融政策決定会合でも、日銀の緩和維持姿勢が明確に示され、その後円は一段と下落しています。

注目!FRBの金融政策正常化の行方

Q2 
今年のテーマのひとつとして、米国の金融政策の転換点があったと思います。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利は11会合ぶりに据え置かれましたが、今後の行方をどのように見ていますか。

A2
政策金利は据え置かれたのですが、このFOMCで公表されたドットチャートでは、23年の中央値が5.625%となり、18名のメンバーのうち9名が、年内あと2回の利上げの必要性を示していました。米国の場合、労働需給の逼迫により賃金インフレが続いており、サービス価格の上昇がなかなか抑制されないことが課題です。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長も注目している「米求人倍率(求人件数÷失業者数)」をみても直近4月のデータでは1.8倍に再加速していました。これを見る限り、今後のデータ次第ではありますが、年内に少なくともあと1回は年内利上げに踏み切る可能性が高いように思われます。

一方、パウエル議長が「年内の利下げはない」と、これまで何度も早期利下げを否定しているにも関わらず、市場ではまだ4割程度年内の利下げを織り込む向きも残っています。当社は年内の利下げはないと予想していますが、こうした「早期利下げ観測」が修正されていく過程において、ドルが目先は強含む可能性が高いとみています。

日本の株価はなぜ上昇した?

Q3
ドル円相場の上昇につれて、日本の株価も上昇してきました。日経平均株価がバブル崩壊後の最高値を更新しています。この傾向はまだ続くのでしょうか。

A3
海外投資家による日本株への投資が株価を押し上げているようですね。背景には、大きく分けて「日本への期待」と「日本への逃避」があると思います。「期待」面では、実際、今年の春闘賃上げ率3.66%と、31年ぶりの高水準となり、大きな話題となりました。こうした賃金上昇を伴ったインフレ、そして内需拡大といった好循環がいよいよ始まるのではないか、との期待が海外投資家の間で高まっていると思われます。
一方、「逃避」については、米中摩擦など地政学リスクによって、また、これまでの利上げによる景気悪化懸念から、中国や欧米から投資マネーが日本に逃避していることなどが挙げられるでしょう。こうした「逃避」については暫く持続する可能性が高いと思われるものの、「期待」については、一時的なものに留まる可能性もあります。例えば、インフレによって日本の実質所得は上がっておらず、景気への押し上げ効果は限定的であることに加え、企業の賃上げが一過性のものに留まってしまう可能性もあり、「インフレから内需拡大」の好循環が実現するかは依然として不透明です。

ちなみに、やや技術的な話になりますが、海外投資家は日本株に投資する際、為替はヘッジしてしまいます。ですが、株価が上昇して元本が大きくなると、その分追加の為替ヘッジの必要が出てくるので円売りが出やすくなる傾向があります。仮に日本株の上昇が続くようであれば、為替では円安圧力が掛かりやすいというイメージをもっておくとよいかもしれません。

日銀の金融政策について

Q4
4月に植田総裁が就任。同月の会見では、「現在の金融緩和の継続が適当」とのコメントが繰り返されました。利上げが続く他国に対して、このように金融緩和を長期化することによる副作用などは考えられないでしょうか。

A4
はい。イールドカーブ・コントロール(YCC)については、本来市場の需給で決定されるべき長期国債(10年債)の利回りを0%付近に「ピン留め」してしまっていますから、あまり長く続けると、国債市場の歪みや市場機能の低下といった副作用が生じます。
実際、そうした副作用については日銀も認めているところで、それを踏まえて昨年12月にはYCCの変動幅拡大(0%±0.25%から±0.5%)を決定しました。植田日銀総裁はいまのところ「(賃金上昇を伴う形で)物価上昇率を2%で安定させる目標の持続的な達成にはなお時間がかかる」として、YCCやマイナス金利政策といった現行の緩和政策を「粘り強く続ける」との姿勢を示しています。ただ、既にこうした異次元の緩和策を長らく実施していることで、今後、仮に海外の景気悪化の影響を受けて、デフレリスクが高まった場合、これまで金利を引き上げてきたFRBや欧州中銀(ECB)は大幅な利下げが可能な一方で、日銀はこれまで以上の緩和策を打ち出す余地が限られてしまうというリスクも高まっているように思います。それは金融政策の温度差を生み、円高圧力を生む可能性があります。

下半期の注目ポイントは?

Q5
2023年下期、為替相場を占うにあたり、注目すべきイベントを教えてください。

A5
日米欧の金融政策は岐路にたっており、金融政策の変化は2国間の金利差の変化に繋がり為替レートに影響を及ぼしますから、引き続き各国中央銀行の金融政策決定会合には注目したいと思います。ただ、下期についてはそろそろこうした「金利差」以外の要因にも目を配る必要があると思っています。例えば、仮に岸田政権が解散総選挙に踏み切り、海外投資家による「労働市場改革から賃上げ、インフレ」への期待がさらに高まれば、日本株はさらに上昇する可能性もあります。
そうなると、先ほどご説明した海外投資家の追加の為替ヘッジなどにより、円安がもう一段進むことになるでしょう。

一方で、米国の政治要因も不確定要素のひとつです。来年は11月に米大統領選が行われますが、投票日の前後1年間のドル円相場を見てみると、投票日までの1年間はドル安・円高、投票日後の1年間はドル高・円安の傾向がみられます。投票日までは候補者が政治的に海外批判を強めるため、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」やオバマ大統領の「輸出倍増計画」などにみられるように、ドル安を促す議論が出やすくなるのです。21年以降、米国の対日貿易赤字は月次で50~70億ドルの範囲で推移しており、昨今の円安でも急拡大はしていません。
したがって、足下の円安がターゲットにはなり難いと思いますが、米中摩擦は激しさを増す可能性はあるでしょう。実際、報道によればバイデン政権は対中投資抑制法案を23年内に発効する準備を進めているようです。そうなれば中国の反発は必至で、2018年にみられたような米中摩擦の激化からリスクオフ、円高のリスクもあるでしょう。23年後半は、為替を見るにあたり、これまで以上にグローバルな政治動向に警戒する必要があると思います。

いかがでしたでしょうか。
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