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はじめて妊娠されたかたや、これから妊娠を希望されるかたの中には、妊娠と出産にかかる費用や、働けない期間の収入減など家計のやりくりを心配しているかたもいらっしゃるかもしれません。今から妊娠と出産にかかる費用や負担を軽減するための制度をおさえ、少しずつ準備をはじめていきましょう。
妊娠と出産にかかる費用はどのくらい?
出産前
出産前には次のような費用がかかります。
1. 妊婦健診費用
妊娠は病気ではありませんが、ママと赤ちゃんの変化や経過を定期的に診る必要があります。
妊婦健診は、健康保険適用外で、計14回程度受けるのが一般的です。
自治体による妊婦健診の助成を利用することで費用は1~10万円程度に抑えられます。
病院や自治体によって検査項目や助成内容が異なるため、事前に確認しておきましょう。
なお、妊娠中のトラブルで妊娠悪阻(つわり)、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの治療や切迫流産などの医療措置には、健康保険が適用されます。
2. マタニティ用品
体型が変化するため、下着やマタニティウエアなどが必要になります。特に仕事を続けるかたは、オフィス用のマタニティウエアに費用がかかるかもしれません。
個人差はありますが、2~10万円ぐらいの予算を見ておくとよいでしょう。
着用する頻度や期間を考え、代用できるものにすることで、費用を抑えることができます。
3. ベビー用品(出産前後で揃えるもの)
個人差がありますが、4万円ぐらいから予算を取っておくとよいでしょう。
肌着、ウェア、哺乳瓶、ベビー布団、抱っこひも、ベビーカー、チャイルドシートなど、必要なものを書き出し、必要な時期や使用期間を考えて、先輩ママや親せきなどのお下がりや、リサイクル、レンタルなども上手に利用しましょう。
出産時
出産時には、病院に支払う費用と入退院に伴う身の回りの費用などがかかります。
1. 出産費用
正常分娩の場合、入院日数は5~7日で、費用は全国平均で約52万円です。
出産育児一時金が支給されるので、実質の負担額は約10万円程度となります。
また、逆子や多胎児、お産が順調に進まなくなったなどの理由で行われる帝王切開の場合、入院、産科手術などは健康保険適用となり、一定金額以上の医療費がかかった場合には、高額療養費制度も利用できます。
入院日数は6~11日程度で、費用は一般に約50~70万円と言われています。出産育児一時金や高額療養費制度を利用することで約10~20万円程度の負担となります。
施設の種類によっても出産費用は異なり、私立大学病院、医療法人病院、個人病院などの私的病院が高くなっています。
出産施設を決める前に出産費用の確認をしておきましょう。
出産費用(妊婦負担合計額)の状況
令和元年度(速報値)
全国平均 | |
全体 | 524,182円 |
公的病院 | 511,444円 |
私的病院 | 550,993円 |
診療所(助産所を含む) | 517,371円 |
入院料 | 115,047円 |
分娩料 | 266,470円 |
新生児管理保育料 | 49,980円 |
検査・薬剤料 | 13,880円 |
処置・手当料 | 14,840円 |
室料差額 | 18,074円 |
産科医療補償制度 | 15,740円 |
その他 | 30,151円 |
合計 | 524,182円 |
※厚生労働省保険局にて集計「第136回社会保障審議会医療保険部会資料」/令和2年12月2日
※正常分娩に係る直接支払制度専用請求書を集計したものであり、室料差額、産科医療補償制度掛金、その他の費目を含む
出産費用の合計額(妊婦負担合計額)
公的病院:国公立病院、国公立大学病院、国立病院機構など
私的病院:私立大学病院、医療法人病院、個人病院など
診療所:官公立診療所、医療法人診療所、個人診療所、助産所など
2. 入退院の準備
入院時には、タオルやスリッパ、歯ブラシ、コップ、ティッシュなどの洗面用具や日用品、産後に使う産褥(さんじょく)パッドや産褥ショーツなどが必要です。
また出産後すぐに授乳やおむつ替えが始まりますので、授乳がしやすい前開きのパジャマや授乳用ブラジャー、母乳パッド、赤ちゃんのおむつやおしりふきなどのお世話グッズも準備します。
入院費用に含まれているグッズもありますので、病院に確認しておくとよいでしょう。
退院時のママや赤ちゃんの服は、季節や気候に応じて用意し、車で移動する場合は、ベビーシート(チャイルドシート)が必須となります。
入退院の準備費用は、1~3万円程度見ておけば十分でしょう。
出産、退院後
紙おむつ代や粉ミルク代(完全ミルク育児派のママや、母乳だけで足りない、止まってしまった場合などに必要)が月1~2万円かかります。
また、季節によって冷暖房や給湯にかかる光熱費などの出費がかさむことも頭に入れておきましょう。
妊娠、出産費用の負担軽減のためにどんな制度があるの?
妊娠と出産にかかる費用の負担軽減のため、国や自治体がさまざまな制度を設けています。どんな制度があり、どこに申請するのかチェックしておくと安心です。
出産前
1. 妊婦健診費の助成
妊娠が確定後、居住している市区町村窓口で母子手帳を申請すると、妊婦健診受診券を受け取れます。
妊婦健診は、すべての自治体で14回以上の助成を実施しています。
2. 傷病手当金
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
切迫流産や妊娠悪阻(つわり)など妊娠中のトラブルで、会社を3日以上連続で休んだ場合に、4日目から標準報酬日額の3分の2が支給されます。
なお、退職後に自らの申請により退職前に加入していた健康保険の被保険者になった任意継続被保険者のかたは、傷病手当金は支給されません。
出産時
1. 出産育児一時金
健康保険の被保険者及びその被扶養者が妊娠4ヶ月(85日)以降に出産した場合は、子どもひとりにつき出産育児一時金42万円が支給されます。
退院時に出産費用を全額支払ってから申請する「産後申請」以外に、医療機関などに直接支払われる「直接支払制度」や医療機関などが代わって受け取る「受取代理制度」があります。
これらの制度を利用することで、退院時に支払う金額は、出産費用から出産育児一時金を差し引いた額となり、負担を軽減することができます。
出産費用が支給額より少なかった場合は差額分を受け取ることができます。
2. 高額療養費制度
1ヶ月間にかかった医療費の自己負担額が、所得に応じて決められた「自己負担限度額」を超えた場合、高額療養費として払い戻される制度です。
事前に「限度額認定証」を病院に提出することで「自己負担限度額」までの支払いで済みます。帝王切開や切迫早産などの医療行為に適用されます。
一般的な所得の会社員や扶養者なら自己負担限度額は約9万円程度です。
出産後
1. 出産手当金
健康保険の被保険者が出産のために会社を休み、その間の給与が支払われなかった場合に、標準報酬日額の3分の2が支給されます。
出産前の42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までの範囲内が支給の対象です。
2. 医療費控除
1年間(1~12月)に実際に支払った世帯の医療費の合計額が、一定額を超えるときに、所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
医療費控除の金額の計算は、次の通りです。
((1)医療費の合計額 - (2)保険金などで補てんされる金額)- (3)10万円(総所得金額などが200万円未満の人は総所得金額などの5%)
種類 | 会社員 |
専業主婦 |
申請先 |
妊娠検診費の助成 | あり | あり | 住民票がある市区町村 |
出産育児一時金 | あり | あり | 加入している健康保険 |
出産手当金 | あり | なし | 勤務先の健康保険 |
育児休業給付金 | あり | なし | 勤務先の雇用保険 |
傷病手当金 | あり | なし | 勤務先の健康保険 |
高額療養費 | あり | あり | 加入している健康保険 |
医療費控除 | あり | あり | 管轄税務署 (確定申告) |
3. 社会保険料や国民年金保険料の支払い免除
ママが社会保険被保険者の場合(会社員、パートなど)
健康保険や厚生年金保険、雇用保険の保険料が、産前産後休業や育児休業などの期間中は免除されます。
年金については、免除された期間についても、保険料を納付したものとして年金額に反映されます。
ママが国民年金第1号被保険者の場合(フリーランス、自営業など)
出産予定日または出産日が属する月の前月から4ヶ月間(多胎妊娠の場合は、3ヶ月前から6ヶ月間)の国民年金保険料が免除されます。
保険料を納付したものとして老齢基礎年金に反映されます。
妊娠と出産にかかる費用の準備は、保険と貯蓄をバランスよく
妊娠と出産前後には何が起きるかわかりません。民間の医療保険で帝王切開や切迫早産の入院や手術が保障対象となる場合が多いので、現在加入している保険の内容を、事前に確認しておきましょう。
また、「まだ医療保険に加入していなかった!」という場合でも大丈夫です。妊娠中でも加入できる保険はありますので、検討することをおすすめします。
妊娠と出産にかかる費用に備えて、支出の見直しをしたり、家計簿をつけたりして、貯蓄体制を作っておくことが出産費用への準備の第一歩。
例えばついつい行ってしまう外食や、いつも頼ってしまうデリバリー、何とか言い訳して買ってしまう自分へのご褒美も日々の支出をチェックすることで回数が減らせるかもしれません。
京極 佐和野(きょうごく さわの)
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FPオフィス ミラボ 代表。CFP🄬、キャリアコンサルタント(CDA)。
25年間生命保険・損害保険の募集業務に携わる。2015年に金融・保険商品を一切販売しないFP事務所を設立。キャリアとマネー両面からクライアントに寄り添うコンサルタントとして従事する傍ら、保険、家計管理、健康、セカンドライフなどの専門分野でコラムを執筆。FP資格講座やFP継続研修、キャリアデザイン研修等々で親近感を与える講師としても活動中。