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2023年の為替はどう動く?チーフアナリスト 尾河眞樹 特別インタビュー

はじめに

2022年の為替相場は日米の金利差拡大による急激な円安進行やウクライナ情勢などによる物価高騰、12月には日銀の政策金利変更もあり、話題の尽きない1年となりました。
また、3月前半に115円付近で推移していたドル円は、一時150円を超えるなど大きく円安ドル高に変動する1年でしたが、2023年の為替はどのように動くのでしょうか。TVなどでおなじみのソニーフィナンシャルグループ チーフアナリスト 尾河眞樹にインタビューしました。

2022年末の急激な円高進行の要因

Q1:
2022年10月に、32年ぶりに150円台を示現したドル円は、その後急激に円高に転換し、12月末には132円台まで下落しました。これまでの円安ドル高の流れから、急速に円高が進行した主な要因を教えてください。

A1:
ひとつには、米国のインフレが減速してきたことが挙げられます。これにより、市場では早くも、米国景気減速と2023年中の利下げが織り込まれ、米長期金利は急速に低下。ドルの押し下げ要因となりました。ちなみに、2022年12月の米消費者物価指数(CPI)は前年比6.5%の上昇となりましたが、実に6ヶ月連続の減速です。また、変動の激しい食品とエネルギーを除くコアCPIも、前年比5.7%と鈍化しました。
ただ、米国のインフレ鈍化は、エネルギー価格の下落による財価格の伸びの減速が大きく影響していて、サービス価格は依然、伸びが加速している状況です。今後はサービス価格への影響が大きい、賃金と家賃の動向が焦点となりそうです。
もうひとつのドル円下落の背景としては、日銀の緩和からの出口戦略に対する、市場の期待が高まったことが挙げられるでしょう。12月の日銀金融政策決定会合で、サプライズの政策修正が決定されてから、円高圧力が急速に強まりました。

投資家へのサプライズとなった日銀の政策修正。今後さらなる修正は?

Q2:
その、日銀の金融政策についてうかがいたいのですが、年末には日銀がイールドカーブコントロール(YCC)の、10年物国債利回りの許容変動幅を拡大したことで金融緩和解除の憶測が広がり、仰るようにこれも円高進行に拍車をかけたと思います。今年4月に任期満了となる黒田総裁の下で、これから日銀はどのような舵取りをするのでしょうか。

A2:
日銀は、「長期金利の変動幅引き上げは、事実上の利上げとなり、日本経済にとって好ましくない」と説明していたため、この決定は大きなサプライズとなったうえ、「事実上の利上げ」と受け止められたことが円高に拍車をかけたと思います。結果、円債の利回りが全体的に上昇したことも、さらなる政策修正への期待を高めました。市場参加者の日銀政策の見通しを反映する円のOIS金利では、今年3月以降のマイナス金利政策解除まで織り込まれたほどです。
日銀は1月18日の決定会合で政策の据え置きを決定し、黒田日銀総裁も会見で「緩和維持」の姿勢を明確に示しましたから、おそらく市場の過度な期待はいったん収束するでしょう。
しかし、特に外国人投資家を中心にもともと日銀の出口戦略への期待は高く、日銀が市場に一度サプライズを与えたことで、今後金融政策決定会合の都度、追加の政策修正への期待が高まる可能性が高く、当社は今年7-9月期には、日銀がYCCの許容変動幅を±0.5%から±0.75%へとさらに拡大すると予想しています。

2022年に大幅な利上げを実施した米国。利下げはいつから?

Q3:
2022年は米国の大幅な政策金利引き上げが続いたことで、高金利の米ドル定期預金がニュースで取り上げられることも多くなりました。
先ほどのお話ですと、市場では23年中の利下げが予想されているようですが、2023年の米国の政策金利はどうみていますか?

A3:
FRBは2022年、かなりハイペースの利上げを実施しました。しかし、先ほど述べた通り、コアCPIは前年比5.7%と、2%のインフレターゲットを大きく超えている状況です。当社は足下4.375%の政策金利が、今年5月までに5.125%まで引き上げられ、その後は同水準で年内一杯据え置かれると予想しています。パウエル議長も「今後は利上げのペースよりも、どこまで利上げするか(水準)と、いつまでその水準を維持するか(期間)が重要」と説明しており、市場の年内利下げ予想は、やや先走り過ぎだと思います。
ひとつ心配なのは、市場が早々と利下げを織り込み、金利は低下、株価も上昇するとなると、FRBが景気の過熱を抑えようと金融引き締めを実施しているにもかかわらず、その引き締め効果が削がれてしまうリスクがあることです。FOMC議事要旨でも「世間一般の誤解による不当な金融環境の緩和」という強い言葉で懸念をにじませています。もし、こうした金融環境が続くようであれば、今後FRBが一段とタカ派に傾く可能性もあるため注意したいところです。

アナリストが注目する2023年のマーケットイベントは?

Q4:
冒頭でも触れた通り、2022年は市場を動かすイベントが多くありました。2023年の為替相場を占うにあたり、注目すべきイベントを教えてください。

A4:
今年は、各国の「金融政策の変化」に注目が集まりやすいとみています。したがって、昨年のドル円相場のように一本調子の相場とはなりにくく、なかなか難しい1年となりそうです。ひとつ留意いただきたいポイントとしては、「市場は期待で動く」ということです。先ほど述べた通り、市場は先走って年内のFRBの利下げを予想していますが、FRBのタカ派姿勢は変わらず、この見方が修正される際に、再びいったんドルが上昇する局面があるとみています。
しかし、利上げが打ち止めになった後は、米国経済の減速も顕著になるなかで、再び「利下げはいつだ?」との市場の「期待」が高まるでしょう。その時は、まだ利下げが確実になっていなくてもドル安圧力がかかりやすくなりますから、注意が必要です。特にFOMC会合毎のパウエル議長の記者会見やFOMCメンバーの発言のトーンの変化には注目したいところです。

またあらたな注目点として、日銀の金融政策が浮上しました。日銀の次期総裁の人事は2月に提示されると報道されていますが、この人事や4月の新総裁就任会見、新総裁就任後の日本の10年債利回りの動向などには注目いただきたいと思います。日銀は1月の決定会合で、共通担保オペレーションを強化しましたので、日銀の国債買い入れなどのオペレーションにも注目したいところです。円債の利回りに再び上昇圧力がかかるようであれば、追加の政策修正への「期待」が高まり、円高方向に振れやすくなると思います。

プロフィール
尾河 眞樹

プロフィール
尾河 眞樹

ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン・チェース銀行などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。2016年8月より現職。

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