なかのアセットマネジメント
代表取締役社長
中野 晴啓さん
当時の日本では珍しい、銀行や証券会社などの系列ではない独立系の資産運用会社・セゾン投信の創業者として知られる中野晴啓さん。長期・積立・分散投資の重要性を訴え続けることで、日本に資産運用を根付かせた立役者のひとりといっても過言ではありません。
そんな中野さんは2023年9月、新会社の「なかのアセットマネジメント」を設立しました。ユニークなビジネスモデルを掲げる同社で何を目指すのか。そもそも長期投資にこだわってきた理由は何で、どんなメリットがあるのか。そして、資産運用の本当の意義とは何なのか。新たなステージに立った中野さんに、さまざまな角度からお話をうかがいました。
中野さんは日本でいち早く「長期投資」「積立投資」のメリットを訴え、長らくその普及に努めてこられました。2024年には新NISAがスタートしたこともあり、長期、積立投資は一気に浸透した印象もありますが、現状をどう捉えられていますか。
中野 金融庁の発表によると、2024年9月末時点のNISAの総口座数は約2,510万で、2023年12月末の約2,120万から400万口座近く増加しています。その数字だけを見ても、大きな成果があったのは明らかですが、何といっても最大の変化は、長期、積立投資が今や当たり前のものにすらなっていることです。私が2007年にセゾン投信を設立したころには、長期、積立などといっても「何それ?」といった反応がほとんどでしたから、まさに隔世の感がありますね。
日本に長期投資を根付かせる第一歩は「しくみ」から
そもそも中野さんが長期投資にこだわられたきっかけは何だったのでしょうか。
中野 私は大学卒業後にセゾングループに入社し、グルーブ資金の運用を担当していました。いわゆる機関投資家だったわけですが、私自身は債券運用における「バイ&ホールド」型の運用、つまり債券を長期で保有し続ける運用をしていて、自ずとそのメリットを実感するようになっていったのです。
ただし、機関投資家の世界では、毎年の決算のたびに運用の成果を時価で評価しなければなりません。あくまで長期投資である以上、短期的にはリターンがマイナスになることもありますが、それでも結果を求められると短期目線の運用になってしまい、長期投資の本来のメリットを受けられなくなってしまいます。その点、個人投資家であれば決算など関係なく、長期投資が実現できる。そう考えて、資産運用会社のセゾン投信を設立しました。
もっとも、当時は長期投資どころか、「投資なんてとんでもない」という風潮すらあった時代。そこで考えたのが、第一歩を踏み出してもらうためのしくみづくりです。そのしくみこそが、長期、積立に分散を加えた「長期・積立・分散」投資であり、その3原則をキャッチフレーズとしてひたすら訴え続けていたのです。
運用会社でありながら、自らの商品や運用よりもしくみについて強調していたわけですから、異色の存在だったのでしょうね。ただ、結果的には金融庁も長期・積立・分散投資をスローガンに掲げるなど徐々に浸透していき、新NISAによって大きく花開いたということかもしれません。
中野 そうですね。皆さんがしくみを理解したうえで、共通の行動をとる。それによって実際に成果を得られることが、日本に長期投資の文化を根付かせる第一歩だと考えていました。
2025年はアクティブファンドにも注目すべき
2024年のマーケットは年間を通して概ね好調でしたから、まさにその成果を実感している人も少なくないのでしょう。とはいえ、マーケットは常に右肩上がりというわけにはいきませんし、足元には懸念材料も少なくありません。2025年は新NISAの2年目という年でもありますが、注意すべき点はありますか。
中野 確かに、今年は相場が荒れる可能性もあるでしょう。ただし皆さんには、なぜ資産運用を始めたのかという目的に、常に立ち返る癖をつけていただきたいですね。おそらくその目的とは、将来に向けた資産づくりなのでしょうし、将来というのは今年でも来年でもないはずです。10年、20年、あるいはもっと先のことだという人も多いでしょう。
そう考えれば、足元の相場がいくら荒れても全く関係ありません。例えば、仮にトランプ大統領の就任がマーケットの懸念材料になるとしても、それは最長で4年にすぎず、長期投資の時間軸でいえば、たったの4年間といっても過言ではないのです。
なるほど、とにかく短期的な成果に一喜一憂しないことですね。一方で、最近はインデックスファンドを保有している人が多いようですが、もし今後のマーケットが不安定になるとしたら、アクティブファンドも見直されていくのかもしれません。
中野 少し難しい言葉でいうと、今は過剰流動性、つまりは金融緩和による「金余り」の状態が、長い時間をかけて縮小していく過程にあると考えています。過剰流動性の状況下では、機関投資家は余剰マネーを即座に投資しなければならず、その選択肢はインデックスファンドしかなかったとも言えるでしょう。それがインデックスファンドの拡大の理由でもあったわけですが、今後はその巻き戻しが起こってインデックスファンドが放出され、パフォーマンスにも逆風となる可能性があります。それに対してアクティブファンドは選別された企業の価値がリターンになるわけですから、全く違う動きをします。要はインデックスファンドとは別次元の運用成果が出る可能性もあるわけです。
また、アクティブファンドには、もうひとつのメリットがあります。長期投資というのは、実は非常に退屈なものでもあり、忍耐が必要になります。私自身、将来のために我慢強く投資を続ける重要性を訴えてきましたが、多くの人が理解してくれるようになり、当たり前の投資行動にすらなりつつあります。
だからこそ、今はいよいよ次のステージへと向かうタイミングだと思っています。つまり長期投資は退屈な作業ではなく、楽しいものだと知ってもらう段階です。それを実現できるのがアクティブファンドだと考えていて、楽しければ長期投資もしやすくなるわけですね。一方のインデックスファンドは単なる数字、記号でしかありませんから、上がった、下がったにしか興味がなくなり、投資の本質や楽しさもなかなか理解できません。その状態で下落相場が訪れれば、おそらく多くの人が投資をやめてしまうのではないでしょうか。
資産運用の本当の面白さ、社会的意義とは何なのか
「なかのアセットマネジメント」を設立したのは、まさにそうした投資の楽しさを伝えるためでもあったわけですね。
中野 その通りです。前職を退任した直後から、本当に多くのかたから応援の声をいただいて、やはりこのまま引退するわけにはいかないと改めて決意しました。しかも、長期投資を掲げ、受益者の皆さんにも「一緒に頑張っていきましょう」とお伝えしてきたわけですから、もう一度、ゼロからやり直す以外に選択肢はなかったともいえるでしょう。多くの人のサポートもあって、新しい会社を立ち上げることができたのです。
新会社を立ち上げるに当たり、どんなことを考えられていたのですか。
中野 まずはセゾン投信で積み重ねてきた16年間のレガシーを、整理することから始めました。やはり16年も続けているとさまざまな問題意識が生まれ、日本の社会構造が変化している中、求められている運用会社の姿に変えていかなければならないという想いもありました。けれども、会社が大きくなった分、そう簡単には変えられず、結局は実現できずに退任してしまったわけです。ですから、もう一度、理想の資産運用会社をつくる機会が与えられたことは、幸運だったと今では考えています。
その理想の運用会社とは、どのようなものなのでしょう。
中野 岸田政権で「資産運用立国」が打ち出され、現在の石破政権でも引き継がれているわけですが、これはまさに国策です。日本における将来のビジョンの核となる金融機能が資産運用ということでもあり、それを提供するのが資産運用会社。だからこそ、本格的なアクティブ運用の提供を当社のビジネスモデルとして掲げました。
とりわけ力を入れているのが日本株であり、日本の産業界の成長を促すために、忍耐強い長期の投資マネーを供給することを目指しています。ただし、やみくもに資金を提供するのではなく、日本の将来をリードしていく本当に強い会社、よい会社を私たちが厳選する。しかもその過程を「見える化」して、投資家の皆さんに共感し、信頼してもらわなければならない。それによって同じベクトルの、より良い社会をつくるという意思を持った資金が企業に提供されることになるのです。
すると今度は企業のほうが、その意思を体現するために全力を尽くす。そして結果が出て企業が成長すれば生活者にも恩恵がもたらされ、投資家にはリターンとして返ってくる。この好循環を回す役割を果たすのが、私たち資産運用会社の社会的な使命だと考えています。
なるほど、資産運用とは単なる儲けの手段ではなく、実は日本全体の活性化にもつながる。それが資産運用の本当の面白さでもあるというわけですね。2年目の新NISAは、そうした楽しさを知るきっかけになるかもしれません。
中野 そうあってほしいですね。自分のお金に意思を込め、未来に向けて投じるのが投資の本質です。それは人生の目的のひとつにさえなり得るでしょう。
かつての中野さんはあえて運用について語らず、ひたすらしくみとしての長期・積立・分散投資を訴え続けてきたわけですが、それが世の中に定着しつつある中で、今後は運用を熱く語っていきますか。
中野 その運用を体現した当社のファンドにご注目ください。
最後に、新NISAがこれだけ盛り上がった一方で、興味はあるものの、まだ第一歩を踏み出せていないという人に向けて、アドバイスをいただけますか。
中野 先ほどお話した過剰流動性が縮小していく時代は、インフレが続く時代でもあります。インフレが続けば、相対的に現金の価値が目減りしますから、預金だけでは資産を守ることができません。だから資産運用が重要になるわけで、長期投資こそが資産をしっかり守る手段だということを改めて強調しておきたいと思います。
本日はありがとうございました。
インタビュー・文:金融エディター 菊地 敏明