ニッセイ アセットマネジメント
商品企画開発部 課長
篠原 裕紀さん
ニッセイ アセットマネジメント
投資信託営業推進部 営業部長
広岡 洋一さん
ニッセイ アセットマネジメント
ファイナンシャルテクノロジー運用部 専門部長
中村 祐一さん
ニッセイ アセットマネジメント
ファイナンシャルテクノロジー運用部
チーフ・ポートフォリオ・マネジャー
髙田 光大さん
近年、投資信託の世界で人気を集めているのがインデックスファンドで、多くの運用会社が多様なインデックスファンドをシリーズで展開しています。そうした中で、ニッセイ アセットマネジメントの「インデックスファンド<購入・換金手数料なし>シリーズ」は、文字通り低コストを前面に打ち出したインデックスファンドシリーズの先駆けといってもいいでしょう。ソニー銀行の投資信託の売れ筋ランキングにも、常に複数のファンドが上位に食い込む人気シリーズとなっています。
インデックスファンドといえばシンプルな商品性とコストの安さだけがクローズアップされがちで、その背景にある思いや運用の手法などを聞く機会はあまりないかもしれません。そこで、同シリーズを設定するニッセイ アセットマネジメントから、商品開発、営業、運用という立場が異なる4名のかたにお集まりいただき、さまざまなお話をうかがいました。
「インデックスファンド<購入・換金手数料なし>シリーズ」は2023年12月に設定10周年を迎え、シリーズトータルの残高も1兆円を突破したそうですね。まずは、このシリーズが誕生した背景やコンセプトなどをうかがえますか。
篠原 当時は今のようにインデックスファンドが普及していない時代でしたから、すでに定着していた米国と同様に日本にもインデックスファンドを広めていきたい。そのためにはどうすればいいのか、投資家が求めるインデックスファンドとはどのようなものか。そうした問題意識が、このシリーズの出発点となりました。
そこで、まずこだわったのがコストです。あえて「購入・換金手数料なし」とファンド名に明記したのも、やるからには引き下がることなく、手数料なしを継続するという決意表明だったのです。今でこそ、インデックスファンドは手数料無料というのが当たり前にさえなってきていますが、当時はまだ珍しく、しかも、ファンド名にまで入れ込むのは画期的だったといえるのではないでしょうか。
広岡 低コストで商品を提供するからには、そもそも何の経費を削って商品のコストを下げているのかも明確にする必要があります。ですから、このシリーズに関してはセミナーの開催や販売用資料の提供といったマーケティングを基本的に行いませんでしたし、目論見書や運用報告書も紙ではなく原則PDFで提供しています。つまり、経費を徹底的に省く分、可能な限りコストを下げているという点を明らかにするのもコンセプトのひとつでした。
「低コスト競争」が過熱すると単にコストを下げることが目的になってしまい、無理にコストを下げてしまえば、ファンドの継続性にも影響しかねません。その意味で、なぜコストを下げられるのかを明確にしていたのは誠実な姿勢なのでしょうね。
誰も取り残さずにコストを下げ続けるというポリシー
シリーズのラインアップに対する考え方は、どのようなものだったのでしょう。
篠原 最初に設定したのが「<購入・換金手数料なし>ニッセイJリートインデックスファンド」で、以降は日経平均株価やTOPIXなどの主要な指数に連動するファンドをそろえ、お客さまのニーズに応じて増やしていったというイメージです。その中で最も残高が大きいのが「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」で、10周年の節目にちょうど5,000億円を突破しました。
(参考ファンド)
<購入・換金手数料なし>ニッセイ Jリートインデックスファンド
<購入・換金手数料なし>ニッセイ 日経平均インデックスファンド
<購入・換金手数料なし>ニッセイ TOPIXインデックスファンド
<購入・換金手数料なし>ニッセイ 外国株式インデックスファンド
最近は多くの運用会社がインデックスファンドをシリーズで展開していますが、貴社の強みはどんなところにありますか。
広岡 ご評価いただいてきた点のひとつが、同じ商品で信託報酬の水準を引き下げていったこと。つまり、新しい商品を出して信託報酬を下げるケースはよくあるものの、当社の場合はそれをしなかったのです。なぜかと言えば、新商品でコストを下げる形にすると、新たに購入するかたにはメリットがあっても、これまであったファンドを購入されてきたが置き去りにされてしまいます。既存の受益者のかたを取り残すことなく、コストを下げ続けてきたというやり方に関しては、当社がパイオニアだと自負しています。
そうした考え方が投資家の皆さんにも徐々に浸透していくのと併せて、残高も増えていったのかもしれませんね。
広岡 繰り返しになりますが、大々的なキャンペーンを行ったり、広告を出したりもしていませんでしたから、口コミなどで徐々に評判が高まり、その積み重ねが1兆円という数字につながったということなのでしょう。まさにお客さまからの信頼があってこその結果だと感謝しています。
「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2023」で「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」が2位に選ばれたのも、そんな信頼感の表れなのでしょう。
広岡 ありがとうございます。おかげさまで、2014年から10年連続の入賞となりました。ただ、投資家の皆さんの中には、なぜ当社のファンドが2位なのか、不思議に思うかたもいるかもしれません。それでも、ブロガーのかたのコメントに「自ら信託報酬を下げる姿勢と、『誰も取り残さない』という御社の考え方に信頼を寄せています」とあるように、当社の理念をしっかりご理解いただいているかたが少なくないのも確かですね。
ファンドを運用されているおふたりは、受賞をどう捉えていますか。
中村 もちろん、とてもうれしく思っています。一方でプレッシャーもあり、例えばブロガーの方は非常に細かいところまで見ています。インデックス運用ではトラッキングエラー、つまり指数からのブレをいかに少なくできるかが重要になりますが、わずかでも違いがあれば問い合わせがあったりして、「そんなところまでチェックしているのか」と驚いてしまうこともあります。
髙田 このシリーズは低コストインデックスファンドの潮流をけん引してきたと自負しています。とはいえ、そもそも認知されなければ購入はもちろん、長期保有にもつながりませんから、こうした受賞で存在感を高められているのは有難いですね。
「コスト」と「指数への連動性」のバランスが重要に
インデックスファンドの運用というのは、アクティブファンドと比べて少しわかりにくい面があるのではないでしょうか。指数に沿って運用するだけなので、簡単だと思う人さえいるかもしれませんが、インデックス運用の難しさはどんな点にありますか。
中村 まずは、組み入れ銘柄数が非常に多い点が挙げられます。例えば、「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」が連動を目指す指数「MSCIコクサイ・インデックス」には約1,300もの銘柄があって、私たちは基本的にその全部に投資しています。しかも、それぞれの銘柄にコーポレートアクションといわれる企業の買収や株式の分割などの動きがあるため、ひとつひとつフォローし、正しく処理する必要があります。そんなアクションが日々、何件かはあるわけですから、アクティブ運用に比べると非常に守備範囲が広いといえるでしょうね。
なるほど、そこまで細かく見ていかないと、指数との連動性が高まらないわけですね。
中村 当然のことながら、マーケットには大きく動く日もありますから、そんな中でもきちんと計算し、指数と合うように運用するのもかなり大変な作業です。アクティブ運用であれば、「今日は様子を見よう」といった選択もありうるのでしょうが、私たちの場合は行動しなければ指数からブレてしまいかねず、様子を見ているわけにはいきません。マーケットからは、常に逃げられないのです。
髙田 個々の銘柄の動き以外にも、マーケットの慣行が変わることもよくあります。例えば最近も北米株の決済サイクルが変わり、これまでは約定金額を確認してから米ドルを送金すればよかったのが、先に送らなければ間に合わなくなってしまいました。そうした変更はしばしばありますから、すべてに対応し、体制を構築しなければなりません。
中村 一方で、指数に忠実であろうとして売買を繰り返すと、コストが嵩んでリターンを少しずつ棄損してしまう場合もあります。そのバランスを考えたうえで、ファンドの規模にも応じたやり方で運用しなければならず、そこがインデックス運用のポイントと言ってもいいでしょう。
髙田 私も毎日、そればかりを考えているといっても過言ではありません。売買をすればするほどファンドが負担するコストも増えてしまいますから、そのコストと、許容できる範囲のブレとの最適解を、日々追いかけているという感覚でしょうか。しかも、マーケットは日々動き、最適解も変わってしまうので、昨日の正解が今日も正解だとは限らないわけです。
一度決めた方針は変えず、とにかくジタバタしないこと
では最後に、最近は新NISAをきっかけに資産形成を始める人が増えていますが、インデックスファンドが一般的になっている中で、第一歩を踏み出すファンド、あるいはファンドの組み合わせをどう選べばいいのか。アドバイスをいただけますか。
広岡 月並みな回答かもしれませんが、まずは投資の基本である長期・分散の考え方をしっかり押さえることが重要でしょう。分散の観点でいえば、例えば米国1国よりも複数の国へ、さらに資産についても株式だけではなく、債券やREIT(不動産投資信託)を加えるといった選択もあり得ます。ただし一方で、むやみに対象を広げればいいというものでもなく、自身のリスク許容度や投資の目的によっても選ぶべき商品が変わってきます。
もっとも、リスク許容度などといわれても、投資初心者のかたが判断できないのは当然です。ですから、まずは投資信託のメリットのひとつである少額から投資できるという点を最大限に活かして、極端にいえば1,000円単位で複数のファンドを保有し、実際にどんな動きをするのかを体験することから始めてみてはどうでしょう。あるいは、最初から複数の資産に分散されているバランス型ファンド、当社でいえば「<購入・換金手数料なし>ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)」などを選択するのもひとつのやり方です。
(参考ファンド)
<購入・換金手数料なし>ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)
あとは投資のタイミングについても、積立を利用して分散する。やはり資産も時間も分散するというのが、投資の王道といえるでしょうね。
長期・分散が原則だとわかってはいても、最近はマーケットの変動が激しいこともあり、投資初心者のかたほど不安になってしまうかもしれません。
中村 最近は上昇相場しか知らず、株といえば上がるものだと思い込んでいる人すら増えているようですが、いずれは下がる局面が必ずくる。その際に最も重要なのは、一度決めた方針をそう簡単に変えず、とにかくジタバタしないことです。
広岡 毎日のようにマーケットをチェックして売買するのではなく、放置しておく。心穏やかに、長い時間をかけて資産を育てるという姿勢が大切でしょう。
髙田 そうですね、とにかく長く持つこと。ただし、どうすれば長く持てると思えるのかは、人それぞれ違うかもしれません。ですから、まずは無理のない金額で始め、自分が納得できるやり方を探していくしかないのでしょうね。
篠原 私たちはそうした長期投資に適した商品をご提供しているつもりですし、皆さんのニーズに応じて新たな商品も開発していきたいと思っています。運用会社の中には、運用と営業、商品企画などの各部門が対立関係になってしまうところもあるようですが、当社の場合は立場が違っても、同じ方向を見ることができているという実感があります。ぜひ今後も、「インデックスファンド<購入・換金手数料なし>シリーズ」をはじめとする当社の商品にご期待いただきたいですね。
本日はありがとうございました。
インタビュー・文:金融エディター 菊地 敏明