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相場の急落で不安になったときには、改めて資産形成の目的と意味を考えてみよう

本ブログは金融ライターの立花 倫さんが執筆しています。

2024年8月5日、日経平均株価は過去最大の下げ幅を記録し、以降も株式市場は世界的に不安定な状況が続いています。新NISAのスタートもあって、最近は資産形成を始める人が急速に増えていましたが、多くの投資初心者にとって、ここまでの下落は初めての経験だったのではないでしょうか。資産の評価額がマイナスになったのを見て落ち込んだり、中には慌てて売却してしまったりした人もいるかもしれません。

確かに、大きな下落を経験すると、「いったいどこまで下がるのか?」と誰もが不安になってしまうもの。けれども、慌てて投資信託や株式などを売却してしまう「狼狽売り」は、投資において最も避けるべき行動だといわれています。事実、8月5日に過去最大の下げ幅となった日経平均株価は、翌日の6日に今度は過去最大の上げ幅を記録して反発しました。もし狼狽売りをしていたら「底値」での売却となり、その後の上昇の恩恵も受けられなかったことになります。

資産形成の基本はやはり長期投資。特に資産形成の目的が老後の資金であるという人にとって、そのゴールは20年、30年先であるはずです。また、最近は積立投資を実践している人も多いと思いますが、積立の場合は右肩上がりの上昇が続く相場よりも、上げ下げを繰り返す相場のほうが、結果的にリターンが高くなる傾向にあります。短期的な上げ下げに一喜一憂することなく、投資の継続こそが最も大切であるという原則を、常に忘れないようにしたいものです。

運用で資産を大きく増やした米国とあまり増やせなかった日本

ところで最近はSNSの普及もあり、今回のような株式市場の急落があると、さまざまな情報が飛び交います。その中にはかなり怪しげなものもあり、「新NISAは政府の陰謀だ!」などといった極端な意見すら散見されました。

もちろん、政府は長らく「貯蓄から投資へ」を呼びかけてきましたし、特にここ数年は「資産所得倍増プラン」を公表し、「資産運用立国」がスローガンに掲げられるなどその勢いが増しているようにも見えます。とはいえ、その背景にはそれなりの理由があるのも事実です。

まずは、止まらない少子高齢化の影響もあって、公的年金の財政状況が厳しい点が挙げられます。2024年は5年に1度行われる「財政検証」の結果が公表される年でしたが、現役世代の男性の平均手取り収入に対する年金額の割合を示す所得代替率は、低下幅が前回から改善しているものの、依然として低下傾向が続きます。「年金崩壊」などと過度に悲観的になる必要はないにしても、決して楽観できない状況にあるのは間違いありません。だからこそ、自助努力によって公的年金を補う必要があり、その手段の1つが資産形成なのです。

また、金融庁の資料によると、日本と米国の家計金融資産は米国が2022年末に14,517兆円だったのに対し、日本は2022年9月末時点で2,121兆円。ここで注目したいのがその増加率で、米国は2002年からの20年強で3.3倍になっていますが、日本はわずか1.5倍にとどまっています。しかも、米国ではそのうち運用リターンで2.4倍になっているのに対し、日本はわずか1.2倍。運用によっていかに資産を増やせるかが、今後の日本の大きな課題であるのは明らかです。

米国では多くの個人投資家の存在が、株式市場を下支えしている面もあります。日本でも同様に運用を始める人が増え、それが日本の株式市場の後押しになれば、企業の成長につながり、いずれは賃金も上昇するでしょう。企業の成長によって株価が上昇すれば、投資家はリターンを得られます。つまり、投資家、企業、従業員がそれぞれ恩恵を受けられるという、まさに「好循環」が生まれるのです。


だからこそ、政府は「貯蓄から投資へ」を提唱してきたわけです。しかも、単に呼びかけるだけではなく、NISAのような税制優遇制度を作ったり、iDeCo(個人型確定拠出年金)などの私的年金制度を拡充させたりと、多くの施策を打ち出してきました。

「顧客本位の業務運営」を旗印に変わってきた金融機関

さらに制度面に加え、金融機関に対してもさまざまな働きかけを行ってきました。みなさんは、「顧客本位の業務運営」という言葉をご存じでしょうか?金融庁は2017年に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表し、各金融機関にその受け入れを呼びかけました。

「顧客本位の業務運営」とは、ごく簡単に言ってしまえば「お客さまの利益を第一に考えて業務を行うこと」ですが、ずいぶん当たり前のことのように思えるかもしれません。しかし、残念ながら一部の金融機関では、投資信託などの販売手数料を稼ぐために顧客に何度も売買させる、いわゆる「回転売買」が横行するなど、かつてはとても顧客本位とはいえない状況もありました。それが「貯蓄から投資へ」の流れを阻害していたと、金融庁が問題視したわけですね。

この「顧客本位の業務運営に関する原則」の公表以降、金融機関の姿勢は大きく変わっていきました。当然、それは金融庁からのプレッシャーによる面はあるものの、「回転売買」などで一時的に手数料を稼いだとしても、結果として顧客の信頼を失ってしまえばビジネスを継続できない。そんな危機感が、金融機関の側にも高まっていたのは確かです。顧客の信頼を得て資産を増やすことさえできれば、自ずと自分たちの収益も増える。多くの金融機関が、その事実に気づいたということかもしれません。

例えば投資信託の販売手数料を見ても、今やネット銀行やネット証券などはほぼ無料になっていますし、対面中心の販売会社でも、その水準は以前と比べてかなり引き下げられています。商品を販売することよりも、顧客の悩みを聞いたうえで解決策を提案するという、コンサルティングに力を入れる金融機関も増えています。

つまり、政府は「貯蓄から投資へ」を呼びかけるとともに、時間をかけて資産形成の環境も整えてきたわけです。それは資産形成による老後の備えが必要だからという理由だけではなく、日本経済全体の活性化にもつながるから。資産形成は自分のためではあるけれど、日本の未来のためでもある。その点をしっかり理解しておけば、たとえ相場の下落で一時的に資産がマイナスになったとしても、長期の目線で資産形成を続けられるのではないでしょうか。

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