1. 前月の予測に対する結果
前月の予測は11月末の米ドル円レート113.17円に対して「1円以上円高」でした。12月末は115.08円となりましたので、残念ながら外れてしまいました。やはり突然現れた新型コロナウイルスの変異株(オミクロン株)出現の影響は読み切れませんでしたね。(「AIで米ドル円相場は予測できるのか? その1」参照)
突発的事象の影響が経済指標などに現れるまで時間がかかりますので、それをAIに投入している場合はなかなか予測が難しいようです。
ですがこれまでの予測結果からはマーケットの大きな流れは把握できていると思いますので、モデルはこのまま変えないでいきます。
2. AIに投入した経済指標およびマーケットデータ
今回はこれまで詳しく触れていなかった予測のベースとなるAI投入データについて説明します。相場を中長期的に動かす要因は大小無数にありますが、当ブログでは以下の項目を投入してAIに分析させています。これらの指標などは、複数の大手金融機関にて20年以上さまざまな金融商品の市場業務に携わってきたトレーダーが、その経験上相場の動きと関連があるものと判断した項目です。さらにこの中から、予測対象と直近の相関が高いものを、毎月一定の基準で機械的に取捨選択しています。
過去20年間で当月が円安になった確率 | 米ISM製造業景況指数 | 名目個人消費支出 前月比 |
過去20年間の月次変化額標準偏差 | 米ISM非製造業景況指数 | 米国中古住宅販売 季節調整済 |
2年物米国債利回りと2年物日本国債利回り差 | コンファレンスボード消費者信頼感指数 | 新築一戸建住宅販売件数 季節調整済 |
5年物米国債利回りと5年物日本国債利回り差 | ミシガン大学消費者マインド指数 | 民間住宅着工件数 季節調整済 |
10年物米国債利回りと10年物日本国債利回り差 | フィラデルフィア連銀景況指数 | 米鉱工業生産 前月比 |
市場で観測される米ドル円の1ヶ月間の予想変動率 | シカゴ購買部協会景気指数 | 米鉱工業生産 設備稼働率 季節調整済 |
米S&P500指数のボラティリティ指数(VIX指数) | エンパイアステート製造指数 | 米製造業受注 前月比 季節調整済 |
CFTC日本円大口投機玉 | マークイット米製造業PMI | 米製造業受注 前月比(耐久財) 季節調整済 |
CFTCドル指数大口投機玉 | マークイット米サービス業PMI | 自動車販売台数 季節調整済 |
日経平均株価 | CPI全項目 前月比 季節調整済 | 非農業部門雇用者数 季節調整済 |
TOPIX (東証株価指数) | コアCPI除食料エネ 前月比 季節調整済 | 失業率 季節調整済 |
中国 上海総合指数 | CPI全項目 前年比 原数値 | 平均時給 年率 季節調整済 |
中国 深セン総合指数 | コアCPI除食料エネ 前年比 原数値 |
ADP雇用統計 |
NYダウ 工業株30種 | 米 PPI 前月比 季節調整済 | 貿易収支 季節調整済 |
S&P 500種 | 米 PPI除食品・エネルギー 前月比 | 経常収支 季節調整済 |
ナスダック 総合指数 | 米 PPI 前年比 季節調整前 | 実質GDP 前期比年率 |
ドル円リスクリバーサル 25D 1ヶ月 | 米 PPI除食品・エネルギー前年比 | 米国株式・債券等への月次純投資額 |
WTI 原油 (NIMEX 軽質スイート) |
小売売上高 小売・飲食サービス売上 | 米国長期債券に対する月次純投資額 |
金スポット (米ドル/トロイオンス) |
小売売上高 自動車を除く 前月比 | |
ドル円通貨ベーシス 2Y | 米個人所得 前月比 季節調整済 |
見慣れない指標などがあるかと思いますが、そのほとんどは機関投資家などプロのマーケットでは注目されている指標・市況となります。投入するデータ期間は、実際にAIに投入してモデルの精度が高い期間を選択しています(現状5~10年程度)。
一般的にAI予測は、誰が計算させても同じ結果になるものではなく、投入するデータ種類や使用するアルゴリズムにより結果が大きく変化します。投入するデータ種類は「何を学習させるか」であり、使用するアルゴリズムは「思考のくせみたいなもの」ですが、無数の組み合わせがあるため、AIでの予測結果も複数存在します。これらの組み合わせ・選択すらもAIに決定させることもできますが、現在でも膨大な時間とコストがかかるため、ここではプロの経験値に頼っています。
3. モデルに対する投入変数の寄与度について
今回より、AIに投入したどの項目がどの程度予測に寄与しているかを調べて、ランク付けして公表していきます。複数の投入項目のうち、ひとつの項目を入力データから外した場合にどの程度モデル精度に影響するかをひとつ一つ計算し、その影響度が大きい順に列挙していきます。
もしこれらの項目の予測期間中の値が過去のトレンドと大きく乖離した場合、予測精度は落ちる可能性が高いと考えてください。例えばヘッジファンドなどの米国通貨先物のポジション状況を示す「CFTCドル指数大口投機玉」は毎週発表されていますが、足元の水準は米ドル保有の割合が拡大方向となっています。したがって今後この規模が1月中に急激な縮小をみせ、さらには米ドル売却の割合のほうが多くなると、予測の的中率が下がりやすくなります。
4. 今月の米ドル円の予測結果と予測精度レベル、寄与度
では今月の予測です。1月末の米ドル円予測は12月末の値115.08円から円高方向となりました。なおこれまでの円安円高の判定精度は7割程度ということになります。
年月 | USDJPY (終値) |
予測結果 | 円高安 予測判定 |
2021/1末 | 104.79 | 1円以上円安 | 当たり |
2021/2末 | 106.55 | 1円以上円高 | 外れ |
2021/3末 | 110.72 | 1円以上円安 | 当たり |
2021/4末 | 109.31 | 1円以上円高 | 当たり |
2021/5末 | 109.58 | 円安 | 当たり |
2021/6末 | 111.11 | 1円以上円安 | 当たり |
2021/7末 | 109.72 | 円高 | 当たり |
2021/8末 | 110.02 | 円安 | 当たり |
2021/9末 | 111.29 | 1円以上円安 | 当たり |
2021/10末 | 114.07 | 1円以上円安 | 当たり |
2021/11末 | 113.17 | 1円以上円安 | 外れ |
2021/12末 | 115.08 | 1円以上円高 | 外れ |
2022/1末 | ? | 1円以上円高 | ? |
また為替レート予測に対する今回のモデルの精度は2.07%で非常に高い精度になっています(一般的に0~3%で「非常に高い」、3~15%で「高い」とされます)。あらたなコロナウイルス変異株が発生してマーケットが大きく動揺しなければ、十分期待できる水準かと思います。
今回の予測に対する寄与度については次の通りです。
1位 | CPI全項目 前月比 季節調整済 | |||
2位 | CFTCドル指数大口投機玉 | |||
3位 | 過去の米ドル円の値 | |||
4位 | 日経平均株価 | |||
5位 | WTI 原油(NIMEX 軽質スイート) |
5. 最後に
1月末の米ドル円の予想値は12月末の115.08円より円高水準となっています。
この予測にしたがう場合、12月末より大きく円高が進んだところで外貨購入や外貨積立の増額、もしくは米ドルを保有しているかたは、為替リンク預金(外貨スタート型)で為替差損に耐えつつ高金利を狙う、といった方針が考えられるかと思います。
本ブログは、定期的にリリースしているソニー銀行のアナリストレポートとともに、投資判断の一助としていただければと思います。最終的には自己責任において取り引きを行ってください。