こんにちは、ソニー銀行の溝辺です。
今回は、レオス・キャピタルワークス株式会社の湯浅光裕さんへの「ファンドマネージャーインタビュー後編」をお届けいたします。
溝辺:
これまで、趣味やご経歴、休日の過ごし方などをうかがいましたが、いよいよ運用方針やファンドに対する想いなどを語っていただきます。
投資家の皆さまにいろんな"!(ビックリ)"をお届けしたい
溝辺:
毎日のルーティーンなどがあれば教えてください。
湯浅さん:
5:00に起きて、体幹ストレッチし、コーヒーなど温かい水分を摂ります。仕事中も含めてウォーキングをするようにして、早く寝ます。
睡眠はきちんととるように心がけており、子どもが小さい頃は19:00くらいに一緒に眠ることもありました。
溝辺:
ファンドマネージャーとして働くことで得られる喜びや成長について教えていただけますか。
湯浅さん:
世界中の経営者や多くの人たちに会えて話を聞けること、世界中を旅することができること、自分の考える理想の社会を表現できること、自分を含めて多くの人や社会の「成長」を実感できることです。
溝辺:
運用しているファンドやその運用方針の紹介をお願いします。
湯浅さん:
ひふみワールド+という、海外の成長企業に投資をするファンドを運用しています。投資対象は日本以外の海外の成長企業です。企業規模、業種等問わず、さまざまな価値観や時間軸を考えて多種多様な成長企業に投資・運用をします。「世界にあふれる!(ビックリ)を見つけにいこう」というコンセプトを持つファンドですので、投資家の皆さまにいろんな"!(ビックリ)"をお届けしたいと思っております。
生産性の向上と、人の成長がすべての活力
溝辺:
成長する企業を見つける方法を教えてください。
湯浅さん:
難しい質問ですね。
まず成長する企業は何か、というと、個人的な考えですが時間を味方につけている企業だと思っています。企業がきちんと計画を立てていなければ、例えチャンスがあっても何も起こらないし、例え計画したとしても時間をかけないとひとつの製品・サービスをつくり上げることはできません。例えば、車を1日でデザインしろと言ってもできませんよね。
そうなると、質問の答えとしては、会社としてのビジョン、ミッションをちゃんと持っているか?それらに向かって日々リソースというものを使い切っているのか?そういう覚悟をもってやっている経営者なのか?というのを見極めることが必要だと思っています。
だからこそ、経営者の考えていることを、働いている多くの人たちに伝えて、働く人たちのインセンティブを見せて、鼓舞して、企業が目指す未来を語っているか?というのを見ています。ビジョン、ミッション、オーナーシップがあって、インセンティブを従業員に還元しているか、それをやり続けられる覚悟を持ってやっているか、そして会社が利益を出せているのか。それらをいろんな時間軸、場所で見つけています。
溝辺:
今後注目する国、投資テーマなどはありますか
湯浅さん:
各国魅力はありますが、やはり米国ですかね。私たちが発行する月次レポートにも書いたことがありますが、米国には教育された人がいて、人口も多く、資金もあり、資源もある。さまざまな観点から見ても、米国という国は重要ですね。
投資テーマだと、プラットフォームですかね。特に個人や会社の生産性を上げるツールは大事だと思います。
今更ですが、労働生産性をあげるさまざまなアイディア、ツールが重要視される今後、安全・継続性がある・アクセスが簡単というものを提供している企業は注目しています。これらは今後も変わらず存在するものであり、必要とされます。
ご存知の通り、今、米国以外の国々は低金利環境に置かれていますね。その環境を利用している企業はもちろん、低金利の中で利回りを求めていく人たちがいるので、そういうところにいろいろ製品、商品を提供している企業はテーマとして注目できると思います。この低金利状態は、今後10年は変わらないのではないか、とも思うので。
溝辺:
企業でも個人でも、ビジネスでも私生活でも、生産性を上げることは非常に重要なテーマであり、平等に与えられた時間をどれだけ有効に消費するかは、人生の永遠のテーマであり続けますね。
湯浅さん:
「生産性=成長」と考えていますので、人の成長を見ると非常に嬉しいです。子どもが初めて立った、歩いた、話したときはドキドキしますが、これは大人でも一緒です。30代の頃は人が成長すると嬉しい反面、ライバル心もあって少し悔しかったりもするので、全世代に通じるわけではないと思いますが、今の私の年齢になってくると、すべて愛おしく感じられます。
また、子どもは存在するだけで両親や祖父母のためになっている。人口増加にも貢献していて、生きていくために稼いで消費もする。すべてがGDPになる。生きているだけで、ものすごい価値があり、そこに成長が加わることでさらに素晴らしい価値を生み出していきます。
ひふみワールド+は、「僕の人生」であるという覚悟
溝辺:
ファンドに対する想いをお聞かせください。
湯浅さん:
ひふみワールド+は、僕の人生だと思っています。
大きく言ってしまうと戸惑われるかもしれませんが、ファンドというのは自分のあり方、考え、レオスの考える未来像、こうあったらいいなと表現するところでもあります。ですので、それを介してお客さまと対話をして、お客さまにお伝えしていくものにしたいと思っています。
溝辺:
ご自身の人生とまで言い切るその言葉からは重みが感じられます。
湯浅さん:
覚悟なんですよね。常に脇差しを携え「いつでも覚悟はできています」というぐらいの思いを持っていれば、大抵のことはなんでもない。厳しく生きるということではなく、楽に生きるためにはそれぐらいの覚悟を持たなければならない。覚悟をして生きていれば後悔もしないし、大抵のことではビクともしない。覚悟ができていないと、何かある度に動揺してしまいます。
15歳になる息子にも言っているのですが、まだ理解できていないかもしれません。でも当然ですよね。私も覚悟ができたのは30歳ぐらいになってからですから。
今は自由に生きて、人生のどこかで覚悟しなければいけないタイミングが来るので、そのときにわかってくれればと思っています。
どんな仕事でもそうだと思いますが、多くのお客さまの命の次に大事なものをお預かりする「運用」という仕事は、そのぐらいの覚悟を持ってやっていかなければならないと考えています。
変化するマーケット、世の中に向き合うこと
溝辺:
過去を振り返っても、マーケットは予測できないことによって急変動してきました。今後もそういったことはあると思いますが、そのような中でどのように運用していきますか?
湯浅:
仰るように、マーケットは外部環境が変わることによって時には急変動します。金融危機、企業の倒産など、それらは別に誰かが決めてやっているわけではない。そして、そういった外部環境に対する金融当局のリアクションもある種外部環境と言えますね。そしてそれらは予測できない。故に、市場は予測できないことに恐れを持ったり、予測できないことによるリアクションを起こして上がったり下がったりする。それは今だけではなく今後も必ず起こります。
投資の本質とは、外部環境により判断するものではなく、主体的に「自分たちはこうありたい」と考えを持つ経営者や働いているかたがたに対し、長きに渡りお金を支援していくことです。
そして運用は、外部環境の変化が大きい中では、私たちはそれを想定した行動をとるように心がけます。例えば嵐が激しいときは身を潜めるように。ただこれも、予想はしていくんですが完璧に予想することはできないんです。ですが、予想していくことは続けます。
どういうことを根拠にするかというと、例えば企業の価値を見るとき、適切な価値から見て少し高いかな?と恐れを抱いたときは慎重に運用します。例えばコロナウイルスも、2019年11~12月から発生していましたがそれは「何か起こっているな」というアンテナはありました。リーマンショック前のパリバのような、「何かが起こる前兆」ですね。もちろんそのときははっきりとはわかりませんが、アンテナは張ります。いろんなことが起こっている、それらが後々点から線へ繋がるようにわかってくる瞬間があるんですよね。
大きな事象が起こった後、私たちを取り巻く環境や、人々の目指す行く先というのは変わっていきます。例えば生活習慣、仕事環境や仕事のやり方なども変わっていくでしょう。そうすると、各企業がこれまであげていた収益モデルは同じではなくなってきます。その変化に対して調整・対応できる企業や、環境変化に合わせた新しい価値観を作っていく企業というのが出てくるんですよね。そういった企業をきちんと想像しながら、ひふみワールド+のポートフォリオに組み込んでいく。そしてそれを時間をかけて検証していく必要があります。
溝辺:
大きな事象が起こると、世の中は変化する・・・ですか。
湯浅:
はい。例えば東日本大震災のとき、電話が通じなくなりました。それによってLINE、TwitterなどのSNSが加速したという背景があるように、それまでは何となく良いもの、若者向けのツールだと思われていたものが、今となっては政府も使うようなツールになっている。それは、例えば10年前、東日本大震災の前に想像できたかというとなかなか想像はできなかったと思います。
そういう生活環境や生活習慣が変わっていくことを、ポートフォリオの中でより鮮明に出していかなければならないんです。
溝辺:
世の中のいろんな変化に対応する企業は、長期的に成長していきますものね。
湯浅:
そうですね。本当の成長というのは時間がかかる。だからこそ長いお付き合いが必要なんです。生み出す製品やそれに従事する人たちのクオリティを見極めてポートフォリオに入れておき、企業の成長をお手伝いする。それが結果として現れるのに、中~長期の時間はやはりかかります。変わるもの・変わらないものを見極め、成長するものを見極めて投資運用すれば、時間はかかりますが、長期的には成長すると考えています。
溝辺:
変動する相場に対して、個人投資家(投資信託を保有する人たち)はどういう向き合い方をすべきでしょうか?
湯浅:
いろいろ動いても「気にしない」という気持ちが大事です。
投資信託を始める、続けるコツは「小さく、ゆっくり、長く」です。無理のない金額から初めて、ゆっくり長くつみたてしていく。そうすれば時間を味方につけることができます。
起こっているマーケットのノイズに注視はするけれども、それによって何かを変えるのではなくこつこつ続けていくということが大事かな、と。
私たちは投資運用に真摯に向き合い、一生懸命行います。なので、私たちがどういう考えで行動しているのかを見ていてほしいと思います。それで不安が100%取り除けるかはわかりませんが、投資というのはそういうものなので。
溝辺:
投資は時間がかかるもの、そして相場は動くもの・・・・・・と心に落としておく必要があると思いますが、特に「相場は動くものだ」と心に落とす方法やコツはありますか?
湯浅:
慣れしかないですね。慣れというか、習慣にすることです。
例を出すなら歯磨きと同じもので・・・・・・皆、歯磨きって習慣になっていると思うんですよ。それを例えば右利きでやっている人が左利きでやろうとしたら、すぐにはできませんよね。
意識をしないと習慣には落とし込めないので、意識をする。「相場は動くものなんだなあ」という理解をすることの習慣化。そして習慣化する工夫を自分するころですね。
とはいえ、それは精神的に苦しくて大変なことです。それができないとすれば、あまり勧めはしませんが、思うがままに行動していくのもありです。行動をとれば結果は良い・悪い問わずに生まれますよね。リアクションを学習していくことも大事です。あまり勧めませんが、人間って痛みや喜びを知らないと行動できないのもあるので・・・・・・そういうのもありなのではないでしょうか。保有資産の全部ではなく、一部でやることも、止めはしません。ただ、投資の基本は「小さく、ゆっくり、長く」。これをやはり、心に留めてほしいですね。
投資をする人しない人を言い換えるとすれば、周りを見る人見ない人
溝辺:
湯浅さんが思う、「良い会社」とはどんな会社ですか?
湯浅さん:
良い会社というのは、自分たち(企業)が思う世界を作れるであろう、製品・商品を提供できる会社ですかね。
そこに企業のエゴはもちろんありますが、そういうエゴがなければ商品やサービスは生まれません。そういった会社がきちんとビジョン、ミッション、オーナーシップを持ち、インセンティブを携えて成長をする会社は、僕らにとっても良い会社だと思います。
溝辺:
湯浅さんが思う、「ファンドに組み入れたくない会社」とはどんな会社でしょうか
湯浅さん:
これも難しい質問ですが、特にありませんね。企業を見る視点は本当にさまざまなので。
少し、話はずれますが意志のない会社は弱いと思います。意志がなければ、どんなにいいものをつくっていても人々には支持されません。
ですが、元来すべての企業は意志を持っているはずです。なので、やはりいろんな企業にはその意志を聞かせてほしいですし、僕らも聞きたいと思っています。
溝辺:
「投資」をする人としない人で、今後どのような差が生まれてくると思いますか。
湯浅さん:
そうですね・・・。投資をする人しない人を言い換えるとすれば、周りを見る人見ない人、だと思うんですよ。周りとは自分の周りだけなのか、日本の周りなのか、世界を周りと定義するのか。その距離が、投資をする人、しない人と同義語になると思います。
周りを見ていろいろ行動している人と、あまり周りを見ていない人の、5年後10年後を想像してみていただくと、それは投資をする人、しない人の未来に少し似ているのではないかな、と思います。
【終わりに】
会話することで人を楽しませながら、考えや目指すべき方向を共有する。
人を想い、自由の大切さを説き、人の成長を願う。
その哲学の通り、楽しくてあっという間に時が過ぎる、そして強く心に響き、強烈に記憶に残るインタビューとなりました。
ひふみワールド+は、「僕の人生」であるという覚悟、企業の意志を最も大切にする姿勢、俯瞰することで生まれる論理的な意思決定。
強靭なメンタリティーと人への愛情が生み出す「運用の未来」に、大きな希望を感じずにはいられませんでした。
ソニー銀行 溝辺
ファンド詳細
「ひふみワールド+」
特設ページもご用意していますので、こちらもぜひご参考にしてください。
インタビュー実施日:2020年2月28日(金)