前回 の記事「収入の高い人ほど退職後に苦戦する?生活費のダウンサイジングを!」は、年収が高かった人ほど穴埋めが難しい現実についてお伝えしました。今回はその落ち込みの穴埋めに皆さんの人的資産の活かし方についてご案内しましょう。
1. わずかに見える勤労収入も貴重
働ける人が「働く」と決めれば人的資産に価値が生じますが、「働かない」と決めれば人的資産の価値はゼロ。それを活かすかどうかは皆さん次第です。仮に年収500万円の方が雇用延長して60歳以降に年収150万円を得られたとしましょう。退職前の7割減収ですから「やってられない」と思われがちですが、5年間継続すれば合計750万円が得られる計算です。老齢基礎年金の78万900円(満額)の9.6年分に相当し、専門家の目線では無視しがたい収入です。
60歳以降も働くと厚生年金の加入を嫌がるかたもいますが、納める厚生年金保険料を毎年10月に反映して年金額を改定し、年1回年金額が増える「在職定時改定(*1)」も2022年度からスタートするので安心材料も増すはずです。
(*1)執筆時点では、退職または70歳になって厚生年金被保険者の資格を喪失するまでは老齢厚生年金の額が改定されない「退職時改定」が採用されているため、年金の増額に反映されるまでの期間が長い
一方で、今まで働いた企業とは離れて起業したいというかたもいらっしゃるでしょう。起業といえば特殊な技能や特別な人脈などを持った一部の人にしか縁のない選択肢と考えがちですが、必ずしもそうではありません。
2. 趣味や技能を収入に変えて楽しむ
手軽な起業もあります。これまでに培ってきた技能や、没頭してきた趣味を積極的に収入に結び付けて楽しむ起業です。立ち上げに大きな費用を要するものは周到な準備が必要ですが、趣味の延長線で社会に貢献できるものが見つかればハードルは一気に低くなります。
筆者の事例をふたつご紹介しましょう。かつて私は精密機器メーカーに勤務するシステムエンジニアでした。その業務で必要となった金融知識を得るためにファイナンシャルプランナーの資格を取得したことと、労働組合の役員に就任したことが重なり、28歳で同じ職場で働く仲間向けにセミナー講師として登壇しました。それが口コミで全国の労働組合に瞬く間に広がり、その後の起業に至りました。
筆者の長男も中学生のときに起業しました。電子部品を買い集めてPCを自作する趣味が高じて中学1年生のときに低価格なゲーム用PCの販売を始めました。実機を使ったゲーム動画をYouTubeで配信すると瞬く間に広がり、マネー誌や子育ての書籍でも取り上げられるほどの売り上げとなりました。
両者の共通点は、①起業にさして費用がかからないこと、②技量の高さが伝われば瞬く間に広がること、③年齢が事業の足かせにならないことです。
何より、「お金を支払って楽しむ」ものだったはずの趣味や技能が、「お金を受け取って楽しむ」立場に代わるだけで日常生活が心身ともに豊かになりますし、同じ趣味や技能を持つ人との新たなつながりも期待できます。
3. 何が人的資産になりうるか
趣味や技能は何でも構いません。例えば、プラモデル作成を趣味としているかたが本格的なジオラマをつくって自宅で楽しむには費用もスペースもかかりますが、ジオラマ作成を受託し、人目に触れる大きな会場に展示されるのであれば趣味と実益を兼ねられます。
趣味や技能を活かした起業例
1. プラモデル(ジオラマ)作成
2. 電化製品の修理
3. PC組み立て・販売
4. 盆栽(教室)
5. スピリチュアル・カウンセラー
6.(山で採取した)山菜、きのこの販売
7. 木工(家具等製造、修理)
8. パソコン教室(エクセル、ワード、イラストレーター)
9. アクセサリー製作(販売、教室)
10. 子ども向けパン(おかし)づくり教室
料理や勉強を教えるのが得意というかたもいらっしゃるでしょう。子どもの7人に1人が社会的貧困とされる昨今、子ども食堂や現代版の寺子屋など社会貢献度の高いものには、その運営費用を寄附やクラウドファンディング(*2)でまかなうところも増えています。私のセミナー参加者には、製薬会社の現役社員でありながら、すでに多くの顧客が集まっているスピリチュアル・カウンセラーもいらっしゃいました。元はご自身で楽しむ趣味から派生したそうです。
(*2)(参考)「クラウドファンディングの基本(FP相談室)」
営業職や管理職として10~20人程度のメンバーを率いた経験があるかたならば、類似規模の零細企業の営業や経営に活かせるノウハウも少なくありません。個人事業主を含む中小企業は企業数で全体の99.7%であり、その多くが後継者問題で悩まれています。「M&A 案件」というキーワードで検索し、対象企業の一覧を見てみましょう。よりリアルに感じられて、どのような準備が必要かを逆算できるようになります。
人的資産は「活かす」と決めれば資産価値が生まれます。ご自身にとって、何が人的資産となりうるのかを見つけるために棚卸してみましょう。
プロフィール
塚原 哲(つかはら さとし)
プロフィール
塚原 哲(つかはら さとし)
生活経済研究所®長野 所長。CFP®ファイナンシャルプランナー。
大学卒業後、精密機器メーカーに入社。2001年 生活経済研究所長野を設立。日本経済新聞、プレジデント、日経マネーなどの媒体に執筆多数。著書に「銀行・保険会社では教えてくれない 一生役立つお金の知識(日経BP社)」
公式ブログ編集部から
「定年と退職編」の第2回目、いかがでした?
今回の企画のために定年や退職をテーマにした書籍を探したら、大量に出版されていて驚きました。